多くの人は「日本は民主主義だ」と言います.確かに選挙があって、それで国会議員が決まり、その国会議員が権力を持つのですから、民主主義の形を取っています.

でも、日本人が投票するときに、その投票の参考になる情報はマスコミから流れますが、そのマスコミが「誤報」を流したり、「扇動」したり、また「故意に重要な情報を流さない」ことがあると、見かけ上は民主主義でも、結局、マスコミに操られた民主主義、「マスコミ傀儡政権」になります。

今の日本はややそれに近いのですが、それは今から100年前もそうだったのです。

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今から100年前の1910年に日韓併合が行われました。さらにその数年後には、当時の中華民国に対して、日本はいわゆる21箇条の要求をしています.

当時の大隈重信内閣も、国民もあげて「対支21箇条要求」を指示しています.まるで、今の中国の政府と国民のようです.

日本の領土で無いところの利権を中国に要求したのです.その時に当時の権力者、山県有朋は「主権線」と「経済線」という概念で中国への進出を進めたのです.

それから100年。今度は中国がその経済力と軍事力を背景にして、第一列島線、第二列島線を敷いて、海洋の支配を進めようとしています。まるで大日本帝国の政策の真似をしているようです.

中国が主張する「第一列島線」というのは「最低でもここまでは守る」という中国の線引きですが、その中には、日本、フィリピン、台湾、インドネシアの領土や200海里経済水域が含まれていますので、今後、なにかと火種になるでしょう。

日本が中国に進出した時代は「帝国主義時代」で、日本は大日本帝国、イギリスは「大英帝国(別の名称もある)」、ロシア帝国などと自称していた時代で、「帝国」とは武力で他国を支配することが許されていた時代でした。

人類としての絶対的な道徳というのを別にすると、当時の大日本帝国の政策は国際的な常識にそったものでした。

それに対して第二次世界大戦後は帝国主義が批判され、中国も一時は「覇権反対」(軍事力などを背景に他国に対して圧力をかけること)を唱えていました。

でも、それは建前で、現実には、アメリカ帝国、中国帝国、そしてロシア帝国に全世界が支配されているのです。

「歴史は繰り返す」といわれますが、繰り返してはいけないこともあります。

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対支21箇条要求の時に、日本政府、山県有朋、大隈重信、日本国民の大多数、そしてそれを扇動した朝日新聞はじめとした戦争推進マスコミはこぞって中国に進出することを声高に叫んだのですが、その中でも石橋湛山は、

1.   調子に乗るのではない(実際にそうなった)、

2.   ヨーロッパの帝国主義と同じように外国を占領しようとしてはいけない(そうなった)、

3.   アメリカが反日になるぞ(そうなった)、

4.   日英同盟が亡くなるぞ(そうなった)、

5.   ドイツの恨みを買うぞ、

6.   中国の恨みを買うぞ(そうなった)、

7.   世界を敵に回すぞ(そうなった)、

8.   100年間、禍根を残すぞ(そうなった)。

と警告しています.

この警告は恐ろしいほど、その後の日本の運命をズバリと予見していますが、マスコミに扇動された日本国民はこの意見を顧みませんでした。

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民主主義が正常に機能するためには、国民が「偉く」なければならないし、当時の石橋湛山のような見識ある発言をよく考えなければならないのです.

今回の尖閣列島の事件で、日本政府は「中国が今まで批判してきた歴史認識をそのまま自分もやろうとしている」ことを指摘し、中国より時代的に、また道徳的に一歩、高い立場から、中国を指導すべきでしょう.

そして、国民は尖閣列島のことや、日本が戦前に行ってきたこと、中国が戦後、主張してきた覇権主義反対路線などを勉強して、日本政府より一段と高い立場から判断するべきと思います.

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(参考)石橋湛山の書いた文章

 吾輩は我が政府当局ならびに国民の外交に処する態度行動を見て憂慮に堪えないものがある。その一は、露骨なる領土侵略政策の敢行、その二は、軽薄なる挙国一致論である。この二者は、世界を挙げて我が敵となすものであって、その結果は、帝国百年の禍根を残すものといわねばならぬ。

英国がドイツに向かって戦を宣するや、我が国民は一斉に起って論じて曰く、ドイツが青島(チンタオ)に拠るは東洋の禍根である。日英同盟の義によってドイツを駆逐すべし、南洋の独領を奪取すべし、帝国の版図を拡げ大を成す、この時にありと。 

 当時、吾輩はその不可を切言したけれども、朝野を挙げて吾輩の説に耳をかす者なく、ついにドイツと開戦の不幸となり、幾千の人命を殺傷した上に、これらの領土を維持するために相当大なる陸海軍の拡張が必要のみならず、独米の大反感を招けるは勿論、あるいは日英同盟さえ継続し得ぬ破目に陥りはせぬかを危ぶまれる。

 実に対独開戦は最近における我が外交第一着のそして取り返しのつかぬ大失策であって、しかしてこれ一に、考えざる領土侵略政策と、軽薄なる挙国一致論の生産物といわねばならぬ。

 対支談判は、ドイツと開戦して青島を取ったことから糸を引いて出た失策ではあるが、その我が帝国に残す禍根に至っては一層重大である。

我が要求が多く貫徹すればするほど、世人はこれを大成功として祝杯を挙げるだろうが、吾輩は全く所見を異にして、禍根のいよいよ重大を恐るるものである。

このたびの事件で、我が国が支那およびドイツの深恨を買えるは勿論、米国にも不快を起こさせたは争えぬ事実である。

 かつて、世界が日本の手を以て、ロシアの頭を叩かせたように、これらの諸国は日英同盟の破棄を手始めに、何国かをして、日本の頭を叩かせ、日本の立場を転覆せしむるか、それとも連合して日本の獲物を奪い返す段取りに行くのではなかろうか。

その場合は、今回得た物の喪失だけでは到底済まず、一切の獲物を元も子もなく、取り上げられるであろう。これ、吾輩の対支外交を以て、帝国百年の禍根を残すものとして、痛憂おく能わざる所以である。」(大正4年。東洋経済)

(平成22929日 執筆)