尖閣列島事件は船長の釈放のあと、まだこじれた状態である.
議論が急がれているが、2つのことを考えなければならないだろう.
まず、一つは「事実」が断片的にしか伝えられていない事だ。たとえば次のようなことだ。
1. 事件は漁船が操業していたのか、それとも別の目的で尖閣列島の海域にいたのか?
2. 漁船は日本の海上保安庁の命令に対して、どのように行動したのか?
3. これまで尖閣列島付近を航行している船の人を拘束しても現場ですぐ自由にして海域から去るようにしていたのに、なぜ今回は拘束したのか(一説に外務大臣命令と言われているが)。
4. 漁船の船長を那覇地検が釈放するときに、政府(国連にいた菅首相や外務大臣と国内にいた官房長官と法務大臣など)と九州管区海上保安庁との間に命令、指示などはなかったのか。
5. 釈放の時に菅首相も温家宝首相もニューヨークにいたが、その時に両者が会見して問題を治めるという動きはなかったのか(現地にいった随行記者はなにも情報を持っていないのか?)
など、事実関係の重要な情報はほとんど出ていない。
このような情報は一般国民はわかりにくいので、そのためにマスコミやNHKがある。私がNHKがなくならないと日本の衰退は避けられないと警告しているのは、このような重要な時に、NHKからは政府発表以上の情報がでないことだ。
・・・・・・・・・
第2番目に考えることは、
1. 今回のことは中国政府が計画的に進めたことか?
2. 中国政府は内陸部の国土境界線を固めたばかりであり、また領海および経済水域の確定を目指しているが、その全体像と今回の問題はどのような関係にあるか?
3. 中国は明治時代の終わりに日本(山県有朋)が取った基本的な考え方、つまり2段構えの防衛線を想定した行動か?
4. 今回の事件は中国が日米安保の実効性が尖閣諸島に及ぶかを伺う意味があったのではないか?
5. 尖閣列島の領有権、および周辺海域の利権(領海と経済水域)について、中国はどのように考えているか(日本の主張はこの点はハッキリしているが、中国が終始、「尖閣列島のことは話題にしたくない」と言っている理由を「同意」するのではなく、「理解」しておくこと)、
6. 尖閣列島に日本は施設も作らず、周辺の資源開発もしてこなかったのはどのような理由があるか(領土を主張するなら、「実効的」であることが必要で、そのためには継続的になにかをする必要があるが、なぜ、何もしてこなかったのか?)を明らかにする、
まずはこの程度のことが国民的議論にならないと、外交は難しいだろう。中国のように言論の自由がなく政府が専制的に決めるのではなく、日本のように言論の自由がある場合は、国民がみずからかなり難しいことを理解しておく必要がある。
・・・・・・・・・
そしてそれに加えて、
「尖閣列島についての日本の世論は一致していなければならないので、議論を避けたほうがよい」・・・という考えかたを捨てることだ。
集団の意志が明確でなければ「議論せずに一致団結」しかないが、それは先の戦争と同じようになる。「挙国一致」は危ない。
集団の意志がハッキリしていれば「異論も含めて十分議論してから、国民の間で合意できることをハッキリさせる」という必要がある。
今回の事は、今まで日本人が議論を避けてきたこと、「日本の国防をどうするか」とか「領土というのはどういうものか」について、一応のケリをつけるまで議論を続ける良い機会である。
是非、成熟した大人の日本人を期待したい。
(平成22年9月28日 執筆)