「タバコを考える」というシリーズを続けようとしたら、かなり強い反撃を受けて、すこし調査や整理をしてから出直そうと思い、パート6で一時、中止していた。

自分自身はタバコを吸わないし、「日本たばこ」の回し者でもない。でも、これほどタバコをどうするのかが議論になっているのに、「吸っても良いじゃないか」という意見はほとんどない。

つまり「魔女狩り」のようになっているので、仮にタバコを止める人でも「納得して止めたい」と思うのではないか、なにか無理矢理、感情的にタバコを排除するのもどうかと思い、シリーズを書き始めた。

ところが、私の素直な感想としては、「ちょっとタバコのことを書いただけで、これほど批判されるなら、議論も止めようか。別に自分がタバコを吸っているわけでもないので」とつい思ってしまう。

「問答無用」というのは怖い。もしタバコというのが最近、登場して人類の危機というほどなら、問答無用もあって良いが、タバコの歴史はどんなに短くとっても江戸時代から続いている。

だから、人間の生活の一部にもなっていて、文化でもある。

やはり、もう一度、冷静になってタバコとはどういうものなのかを考えてみたくなった。それがこのパート7である。

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タバコを簡単にまとめると次のようになる。

1)  タバコを吸っている人は肺の疾患、特に肺がんになりやすい、

2)  (タバコの排斥運動が起こってからの話だから、そこがちょっと引っかかるが)タバコを吸っている人の横にいる人も健康障害がでると言われる、

3)  タバコを吸っている人の近くにいると煙たい、

4)  タバコを長く吸っていた人の部屋はヤニ臭い、

5)  タバコはストレスの解消や、一服して気分を和らげにはとても良いものだ、

6)  タバコを吸っている人が極端に短命という感じもしない、

7)  タバコを吸っている人は他人に強制されているような感じはしない、

8)  タバコには高い税金がかかっていて、我々はその人達の恩恵を受けている、

9)  タバコを吸っている人はなんとなく人なつっこい。でも図々しいと思うこともある。

こんなところだろう。

そこでここ数ヶ月、タバコの勉強をしていた。一つ一つ整理を進めていきたいと思うけれど、このパート7では、まず2つのグラフを示したい。

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このグラフは今から45年前の1965年と2009年までの喫煙率の変化を示していて、男性の場合、82%から19%へ約2分の1になっている。女性はすこし増えているかと思ったが、19%が14%程度に微減というところだ。

この数値は厚生労働省のものだから、すこし疑問もあるが、次のグラフとの関係もあるので、ここではこのグラフを使う。

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さらにこのグラフは、肺がんの死亡数を示していて、横軸がすこし違うけれど1960年から2008年になっている。喫煙率のデータのある1965年に肺がんで死亡した人は男性で6千人ほど、女性で3千人ほどであったが、2009年(2008年から推定)には男性は5万人ほど、女性は2万人だ。

この2つのグラフで、まずは次のことが思い浮かぶ。

1)  男性で喫煙率が2分の1に減っているのに、肺がんは8倍に増えている、

2)  女性と男性は肺がんの発症率はかなり違うようだ、

3)  おそらくは肺がんになるかならないかは、タバコ以外の別のなにかが原因しているのだろう。

でも、こう書くと、かなり厳しい反論が予想される。

「ガンが増えているのは、年齢の関係で増えているので、そんなものを一緒にしてはいけない。だいたい・・・」というお説教を聞かなければならない。

いや、慌てないで、とまずは言いたい。自然はとても難しいものだから、自然科学を取り扱うときには常に「自分の頭はそれほど良くない」と謙虚に構えないといけない。

自然はいつもとても偉大で理解はむつかしいのだ。順序よく一つ一つ解きほぐしていかなければならない。

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「タバコを吸うと肺がんになる」

「事実は、タバコを吸う人が減ったのに、肺がんが増えている」

という2つの「事実」は少なくとも見かけは矛盾して見える。

これにさらに、

「現代の日本人の生活で、もっとも肺がんの危険性の高いのはタバコを吸うことだ。だからこそ、自治体まで動員して「タバコは排斥運動」をしているのだ。」

というのを加えると、矛盾は拡大する。

「国民の健康を守り、肺がんを撲滅するには、喫煙率を減らすことが第一だ」

とすると、45年間にわたって喫煙率を実に2分の1まで減らしたのに、何の役にもたたなかったのか?!

「それは寿命が延びたから、タバコで肺がんにならなかっただけだ。そんなことを言ってもらっては困る」と医者に言われるだろう。

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つまり、綿密な年齢別の発がん率を出さないと「タバコが肺がんの元になって死亡率に影響を及ぼす」ということにはならない。

もう一つ、全体を見渡してみよう。

女性はこの45年間でほとんど喫煙率は変化していない。しかし、肺がんは8倍になっている。つまり、「喫煙率が変わらなくても、平均年齢が上がっただけで肺がんは8倍に増える」としよう。

1965年から2009年までの平均寿命の伸びは、女性と男性でほぼ同じ。

45年間で喫煙率の変わらない女性は肺がんの死亡率が8倍。同じ45年間で喫煙率が2分の1になった男性も肺がんの死亡率が8倍。つまり、喫煙率が変わっても年齢によって肺がんになる可能性は等しいということになる。

従って、タバコを吸って致命的な肺がんになりやすいという話は、少なくとも全体統計からは事実とは違うということになる。

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実は、私はすでに喫煙率と肺がんの発症率との関係、気管支の障害についても調査をしてみたが、もちろん喫煙している人の方が障害の発生率は高いことは知っている。

でも、個別の調査と全体の傾向が異なるときには、自分の先入観をいったん、疑ってかかるのが科学的態度である。先は急がない。また自分の先入観を人に押しつけようともしない。相手がデータで納得するように最後までしっかりやりたい。(録音の一部に男性の喫煙率の低下が2分の1なのに4分の1と言っているかもしれません。訂正してお詫びします。)

(平成22516日 執筆 音声あり)

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