人間はいつ頃から「全体を見る」ということを覚えるのだろうか? 

小学校1年生の時に「教室を綺麗にしましょう」というと、ある児童は黒板、ある児童は拭き掃除という当番で始める。そんな時に、ある子どもが教室の隅の方を一所懸命に磨いていたとしよう。先生は、

「**くん、磨くのも良いけれど、まずは教室全体を綺麗にしてからよ」

と教えるだろう。

確かに、教室を綺麗にする目的から言うと、黒板を綺麗にするのも、床を拭き掃除するのも、あるいは教室の隅を磨くのも同じかも知れない。でも「大人」になるためには「程度問題」が自然に判るようになっていなければいけないのだ。

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私が時々、「森林はCO2を吸収しない」という。その理由は2つある。

1)  一本の樹木の体は吸収したCO2でできる。だからCO2を吸収するが、枯死すると微生物が分解してもとのCO2に戻る。これを「自然の持続性」と言う。

2)  森林は、その面積が同じである限り、今日、誕生する樹木と今日、枯死する樹木は同数だから、全体としてはCO2は吸収しない。

3)  ただ、例外がある。枯死するときにたまたま水の中に落ちたり、砂嵐が来たり、また海の植物プランクトンが海底に沈んだりして、酸素と触れない場合は、植物の炭素はそのままどこかに蓄積してしまう。

4)  地球の長い歴史では、CO2は「例外」によってすこしずつ減少してきた。かつてはCO2ばかりだった大気は、すっかりCO2が無くなって、最初は少なかった窒素と、CO2からできた酸素になった。

だから、まず良く管理された森林はCO2を吸収しない。例えば「温暖化対策のために植林されたような森林」がそれに当たる。

もう一つは、地上に植物が盛んに繁茂しだした時代は今から5億年前だが、それから5億年かけて大気中のCO2は10分の1から、100分の1に減った。これを仮に100分の1としよう(自然の効果を大きめに見積もる・・・自分の論拠に厳しく考えるのが誠実というものだから)

5億年というのは、0をつけて書くと500000000年だから、これを100で割ると5000000年、つまり500万年になる。これまでの地球は生物の活動で500万年ごとに100分の1だけCO2が減って、今はついに当時の100分の1になった。

実際の計算はもう少し複雑だが、あまり詳細にとらわれずに物の本質だけをみる。精密な計算をしても結果は同じなので、日下先生の「アバウトの原理」を活用する。

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今、温暖化で0.03%が100年で0.7%になる。つまり生物が500万年かけてCO2を減らしてきた量を人間が100年で元に戻そうとしている。

次のように言ってもよい。自然(森林や植物プランクトン)が500万年かけて減らしたCO2を人間が100年で増やそうとしているのだから、自然の力を借りようとしても5万分の1しか助けにならない。

もちろん、いろいろな計算があるから、精密に計算したら1万分の1かも知れないが、おおよそそんな感じだ。

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でも、このことを社会に対して発言するには確認が必要と思い、10年ほど前に森林総合研究所のような公的機関に電話をして責任者にでてもらい、

「森林がCO2を吸収して、それが温暖化に寄与することにはならないと思いますが、貴所のホームページに「寄与する」と書いてあるので、お教えください」

と言いましたら、その人は、

「武田先生のおっしゃるとおりです。ホームページは補助金との関係で間違いが書かれています」

とお答えになった。

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私たち大人は小学校の時に「全体をよく見て、意味のあることをしなさい。特にみんなで心を合わせて教室を綺麗にするときなど、自分勝手に小さいことだけをやってはいけませんよ」と習う。

温暖化はあまり被害をもたらさないと私は思っているが、もし被害があるなら「意味のある対策」をしなければならない。

たとえば、一家で出費が多いので、10万円ぐらいを節約しようと家族で決めたとしよう。そんな緊急の時に、「あそこに言ったら1円安かった」と言って喜んでいたら、家族はどういうだろうか?

「1円なんか節約にならないよっ!」

と怒るだろう。真剣であればあるほど、目標を本当に大切に思わない人はかえって困るのだ。

もちろん、森林がCO2を吸収しない(意味のある吸収量はない)ということは専門家は知っている。でも国民は「幼児だ」とバカにしていて、それで補助金を貰っているだけなのである。

ところで、こんなこともあった。

京都議定書の締結からしばらくして、日本が「森林のCO2吸収を認めてくれ」と言って国際的な嘲笑を浴びた。でも「日本人を騙すにはこれしかない」と日本の役所が主張したので、ヨーロッパの「EUバブル計算方式」と取引したという歴史を日本人はどう考えるだろうか?

(音声を付けています。)

(平成22413日 執筆)

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