20091017日,ネットをなにげなく見ていたら,次のような記事が出ていた.

17日、地球温暖化の影響でヒマラヤ山脈に存在する氷河の融解が加速し、エベレストではこれまで見かけられなかったハエが確認されたという」

ニュース・ソースはイギリス紙・ガーディアンで,有名な新聞である。

普通の日本人なら,このニュースを「CO2による地球温暖化でヒマラヤが温暖化している」と思うだろう。それが普通だ.

でも,私は4000メートルから5000メートル上空の気温に変化がないという1979年からのNASAのデータを知っているので,「ほう,人工衛星の測定データが間違っているのか,それともヒマラヤの特別なことなのかな?」と思った.

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まずは基礎的な常識.

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上のグラフ1979年から1999年までの20年間の中層対流圏の気温の変化だ.

CO2の濃度を示すグラフの上の方の線はCO2で,わずかに上がっているが,ギザギザした線は温度で1997年以外はほとんど変化が無い事が知られている.

一般の人が知らないことで,専門家の間では常識というのは普通にあることだが,ヒマラヤのような中層対流圏の気温が変化していないことは良く知られている。

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それなのになぜ?と思ってガーディアンを英語で読んでみた.そうすると記事の印象はまったく違う。

次のような内容だった.

「かなり前からヒマラヤは気温が上がってきて,氷が融け始めている。でもハエが飛んでいたのにはビックリした」

地球規模の温暖化がヒマラヤの気温があがり,それでハエが飛んでいたなどという「因果関係」が書いてあるところは見あたらない。

日本人の翻訳者の創造物だ.その方が記事としても売れるのだろう。

記事を書いて他人に情報を流す人は「情報伝達の専門家」で,それでお金をもらっているはずだ.その人がこんな誤報を流すとは,NHKなみだ.

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ガーディアンの記事には,日本で言う「地球温暖化」とヒマラヤの関係は書いていない.そしてもし何らかの記述があっても,ハエとヒマラヤの気温の関係,ヒマラヤの気温と地球温暖化の関係についての合理的な記事でなければ「いかがわしい記事だ」ということを付け加えておかなければならないだろう.

日本人の翻訳者とかマスコミの人は「事実」を大切にしようとか,「情報は厳密に伝えよう」という気持ちをすっかり失ってしまったのかも知れない.

それに翻弄される日本人が可哀相になる.

(平成211018()