1988年という年はアメリカの気象にとって特別な年だった.
農業地帯では雨が降らずに大干ばつになり,都市ではヒートアイランド現象がいよいよ本格的になり,暑い夏をさらに暑くした.
なにしろ,アメリカ合衆国は大陸性気候の国であり,気温の上下は激しく,さらに内陸の気候は巨大な竜巻あり,なんでもありのワイルドな世界である.
干魃はアメリカ中西部の農業に大きな影響をあたえ,トウモロコシの収穫は30%減にもなっていた.
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アメリカを襲った大干ばつの前の年,つまり1987年にアメリカ上院議員,ティモシー・ワースは世界的なネットワークを持つ巨大メディアCNNの創業者のテッド・ターナーから日本円で1000億円のお金をもらい,地球温暖化問題活動をする国連財団の筆頭理事に就任した.
ちなみに,国連財団会長はマスメディアの雄,テッド・ターナーであり、専務理事にはあのロスチャイルド家のエンマ・ロスチャイルドであった。
ロスチャイルド家はかつては石油で大もうけした家だが,今では国際金融を牛耳っている世界の帝国でもある。
お金をもらい筆頭理事になったティモシー・ワースにしてみれば,早い内にテッド・ターナーとエンマ・ロスチャイルドにゴマをすらなければならない.
でもそのチャンスは意外に早く来た。それが1988年のアメリカの大干ばつと都市の暑い夏だった.
農作物の収穫に問題がでそうだとの見方が有力になった6月になると,ワースの活動は活発になり,アメリカ上院のエネルギー委員会で地球温暖化の公聴会を行うことになった.
1988年6月23日,ワースがこの日に公聴会の開催を持ってきたのには理由があった.彼は,過去の気象を調べて、ワシントンの最高気温がこの日に記録されていることなどから見て,一番暑い日になる可能性が高かったことに注目した.
さらに,委員会当日になると,委員会の室の冷房を切ってしまった。
彼の計画通り,6月23日は非常に暑い日となり、冷房が切られた室内はもの凄い暑さになった.
そんな中で,証言に立ったアメリカ航空宇宙局ゴダード宇宙研究所のジェームズ・ハンセン博士が、「アメリカの暑い気象が地球の温暖化と関係していることは99%の確率で正しい」と証言した。
なにしろこの公聴会自体がCNNの肝いりである。公聴会の発言は直ちにマスコミが大々的に報道し、それまで不遇を囲っていた「温暖化派」は一気に舞台の中央に躍り出たのである。
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歴史的には,学問が政治に蹂躙された例はいくらでもある。第二次世界大戦前にはヒットラーが「優生学」を支配し,劣等民族に皆殺しを計画していた.
当時のドイツの大学で博士論文を通すためには,ドイツ民族が優れていて,他の民族は劣るという記述が必要だった.
共産国のソ連では,遺伝学者ルイセンコが「共産主義のもとで育てた植物は優れている」という「政治体制が植物の遺伝を支配する」という学説を立て,共産党政権に支持された.
ルイセンコの説に「懐疑」を表明した学者は迫害され,あるいはシベリアに送られた.恐怖の「政治が科学を支配する時代」だったのである.
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かくして,その日を堺に,従来の主流「地球は徐々に寒冷化する」という地球物理学者たちは「懐疑派」になり,それまでの懐疑派「CO2が地球を温暖化する」と主張する一派が,政治的実権(学術的ではない)を握った.
もともと,地球は徐々に寒冷化していくというのが,地球の気温を研究している学者では多かったのだから,その点では「CO2温暖化説」というのは「新学派」の主張だった.
ワースはそれを政治的にひっくり返すのに成功したのだ.いま,日本で「CO2温暖化説」に疑問を呈する学者を「懐疑派」などと言っているが20年前は逆だったのである。
学問は懐疑を大切にするものだから,CO2温暖化説が新学説であっても,また寒冷化に対する懐疑派であっても,それはとても結構なことで,それによって議論が深まり,より真実に近づくことができる.
学問は真実を求める欲求であり,それが人間に取って難しいことも知っているので,懐疑は歓迎なのだ.
懐疑を嫌いな人は学者を止めて,政治家になったらよい.また事実を尊重せず,自分の意見や政治のマジョリティーに関係のあるマスメディアの記者も職業を変えた方が良い.
私は企業から大学に移ったときに「勉強が嫌いな先生」がおられることを知り,ビックリすると同時に可哀相になった.大学の先生で勉強が嫌いなら,毎日は地獄である.
だから,学者で真実を知りたくない人,記者で事実を伝えたくない人は毎日が苦しいだろうから,職業をすぐ変えることをお勧めする.
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同じく政治家のゴア氏は,その著書の中で「このまま温暖化が続けば海水面が6メートル上がる」と言い,「温暖化でニューオーリンズに史上最大のハリケーンが襲った」と書いた.
でも,両方ともウソである.「このまま温暖化が続けば」と「海水面が6メートル上がる」ということの間に,「3000年」か「数千年」が入っていたが,それを故意に削除した.その本はすぐにで温暖化が来ると書いてある。
NHKに言わせれば「今のエコでは間に合わない」というところだが,それに3000年後のデータを使う。 読者や視聴者は知らないからだませるという論理だ.
また,ニューオーリンズをおそったハリケーンは史上6番目で,最大のハリケーンはまだ温暖化が進んでいない1920年代のものである.
「素人は知識がない.だからだますことができる」というのは,最近の政治家とマスメディアに共通した確信である。
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主流派が懐疑派になった瞬間は,このように訪れ,今では前東大総長も「温暖化の恐ろしさを強調するためには,懐疑派を撲滅しなければならない」という趣旨の発言を白昼堂々とするようにまでなった.
洗脳とは恐ろしいものである。
(平成21年8月25日 執筆)