最近の投稿を掲載します.内容的には少しダブります. またファイルが大きいので,4つに分割しました.

市民と子供たちのための環境問題

中部大学 武田邦彦

はじめに

現在の日本の環境は大きな社会問題になるほど悪くはない.大気,水質,薬害,公害患者数などいずれも世界でもトップクラスの良い状態である。それでも,毎日のように環境問題が話題になるのは,将来,日本の環境が悪化する可能性があるということである.また,我々は世界市民の一員だから,世界の環境の保持のためにも力を尽くさなければならないが,その前に日本国民であり,さらに私の場合は名古屋市民である。まずは名古屋市民としての行動を取らなければならないが,その点で本講演では「私たちは誰のために何をしようとしているのか」という副題をつけさせていただいた.

1. 誤報の時代

社会にはときどき誤報の時代が訪れる.それは事態が極度に困難になったり,解決が難しくなると現実から逃避してできるだけ事実を見たくない気分になるからである。10年ほど前から数年前まで,「温暖化で北極の氷が融けて海水面が上昇する」と真面目に解説された.しかし,北極の氷の大半は海氷であり,海に浮かぶ氷はアルキメデスの原理で理解できるように,若干の塩分の補正などはあるが,その融解は基本的には海水面には関係がない.

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科学技術立国と言われる日本で,理科の基本となる現象が誤解されたまま報道されたことを技術者はどのように考えたら良いのだろうか.それよりさらに初歩的な誤りは「南極が温暖化すると氷が融解する」という迷信である.南極大陸の氷は地球が誕生したときにできたものではなく,南極大陸が大陸移動で現在の極寒の地域に移動し,雪が堆積してできたものである.従って南極が温暖化すれば周辺の海水の蒸気圧が増大し,雪は増加すると考えるのがごく一般的である.少なくとも化学実験で一回でも蒸留の実験を体験したもので,このような初歩的なことが理解できないはずはない.

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さらに「文献を見る」という科学の世界ではもっとも基礎的なこともおろそかになっている.多くの人は,IPCC(国連の温暖化に関する正式研究機関)が「南極の気温は変化していない」と報告しているにもかかわらず,多くの日本人が南極の気温が上がっていると錯覚している.また温暖化すると南極大陸の氷が増加すると言うことも報告されているが,文献よりテレビの噂を信じるという現代の技術者の体質が良く表れている.

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個々では紙面の都合で温暖化に関する誤報では北極,南極,そして海水面の上昇について紹介するが,多くの報道は誤報であると言っても良いような状態である.たとえば温暖化で海水面が上がり,すでに南太平洋のサンゴ礁の島ツバルが浸水しているという報道が繰り返しおこなわれている.しかし,地球はその表面の3分の2が海であり,その海水面を1メートル程度上げるための水源が何処にあるのかは全く示されていない.桶に水を張るにはその分の水を何処かから持ってこなければならないという計算は小学生の算数で学ぶ。実に奇妙な社会になったものである.

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また,環境問題で警戒しなければならないのは「子供を宣伝に使う」と言うことである.次の歌はある放送局が子供用に作った「環境に関心を持たせるための歌」であるが,個々に示されている情景は全く現実離れしている.北極の氷は現在の時点ではほとんど今までと変化はなく,ホッキョクグマが「暑い」という気温ではないことも確かである.またホッキョクグマや数万年前にヒグマと分かれたきわめて若い種あり,北方に移動した一群の生体が限定されていると言うことを強調したもので,物理や生物という基本的な学問をほとんど無視した報道と言える(引用は学問的事実として使用している).

・・・何かがおかしい地球の様子

氷がどんどん溶けはじめ

白い世界は小さくなった

ホッキョクグマは毎日じりじり追いつめられる

聞こえてくるよ悲しい叫び

「暑い」「暑い」「なんとかしてよ!氷の国を返してよ!」

北極の氷の実態を示す国際北極圏センターで公表しているデータを元に以下に示した.北極海の元々の面積は1400万平方キロメートル程度であり,冬はほぼ前面が結氷する.夏に向かうと徐々に融解するが,年による融解の程度は少ない.もっとも氷が少なかった2007年においても平年時とそれほど大きく変わっている訳ではない.またここ100年だけをとって見ても,現在の北極の気温や水温がもっとも高かった1940年代に比較してどのような状態かも不明である.北極の氷は全体的に薄くなっている傾向があり,今後,北極海の氷が一時的になくなる可能性もあるが,それはここ数1000年をとっても史上初めての現象ではないと考えられる。

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このような科学的な錯誤の他に,温暖化の国際会議として有名な京都議定書でも,大きなトリックが行われ,それはほとんどマスメディアによって報道されなかった.すなわち京都議定書は1997年に締結されたにもかかわらず,計算の基準年を1990年にしたので,東西ドイツの統一,北海油田の稼働,ソ連の崩壊などが関係し,ヨーロッパに著しく有利になったのは周知の事実であるが,これも日本では「京都議定書は神聖だ」という感覚を持っていたので,ほとんど報道されなかった.

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(表ではカナダが批准せずになっているが正式には「離脱」)