環境問題でさまざまな人にお会いして話をする。その中には国の枢要の人もいれば,市長さんや高名な学者の方もいる.その人たちとお話ししていると,二つのことに気がつく。

一つは,割合平気で「ウソ」を言うこと,二つ目は「言動不一致」であることだ.

最終的には,現在の世界全体がある「虚構」で成り立っていて,それが個人個人の考えや行動に反映されているように感じられる。

たとえば自然科学の世界では「エントロピーの増大」という原理原則があるが,これは宇宙全体の法則でもあり,個人個人の毎日の生活でもその通りに現れる.

「バケツに赤インキを一滴垂らすのは簡単だが,そのバケツから赤インキを回収するのは大変だ」ということで説明する方法があるが,エントロピーは常に増大し続けていて,それに反することは日常的なことでも,とても大変なのである。

ある市では「温暖化で海水面が上がるので,みんなでCO2を削減しよう!」と呼び掛けている.そして小学生などが参加する行事では「みんなでCO2をゼロにしよう」と言っている。

小学生は顔を紅潮させて,張り切ってCO2削減に頑張っているらしい。

その自治体の人は私にこう言った.

「あんなに子供たちが純情で頑張っているのに,いまさら「温暖化しても海面が上がらない」なんてとても言えません.だから,CO2を減らそうと言わざるをえないのですよ.」

私は,一応,解説をした.

1) 北極の海氷は融けても海水面は上下しない.

2) IPCCによると南極は温暖化で氷がふえる.

3) 従って,太平洋の海水面を上げられるような膨大な「水源」はどこにもない.

でも,その人のお考えは変わらなかった.ウソであれ何であれ,マスメディアの報道に基づいて市民が「温暖化したら海水面があがって,水浸しになる」と信じているのだから,そしてそれを信じて感激しているのだから,裏切るような可愛そうなことはできないと言われる。

私は科学者だから事実を外すことはできないが,自治体は政治だから,市民が信じていることが事実であり,科学的事実は事実ではないと言うことなのだろう.

つまり現代の社会はマスメディアがウソをついてしまえば,それによって国民の頭が決まり,政治家がそれに追従するという図式なのである.

だから,ここまではしかたがないと思うが,その後がいけない.「温暖化しても海水面はあがらない」ということを知っていて,横に座っている私と同じ科学者は終始「黙っている」のである.

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「事実を軽視する」ということと,「議論を避ける」ということが同居しているように見える。私はあまりアメリカというのを評価していないが,先日,オバマ大統領が「中絶」というきわめて微妙で感情的になる話題について大学で講演して次のようにのべていた.

「人工中絶という問題はきわめて困難で,おそらく合意することはできないだろう.でも,お互いに議論して歩み寄ることできないだろうか?」

私は,人には考えの違いがあり,それを認めて事実を冷静に判断し,そしてお互いに歩み寄るぐらいの精神力のある社会が望ましいと思う。

おそらく,多くの人は「温暖化で海水面は上がらない」と判っているだろう。でも,「みんながそう思っているのだから,それで良いじゃないか」としているように見える.

でも,ウソをついて児童を感激させても,それはやがて児童の心の傷になると思うし,日本は尊敬される国にはならないだろう。

(平成21519日 執筆)