インフルエンザとは何か?を書き始めて6回目になる.私は学者というのはある制限があって,「現在進行形」のものについては事実が判然としないので,基本的にはコメントしないという方針だったが,インフルエンザの問題は環境の一つとしておおきな課題であるので書いてみることにした.

また,あまり慎重に構えていると,マスメディアのように現在進行形のものを書かなければならない人の気持ちが分からないのではないかと思い,自分としては禁を破ってインフルエンザについてコメントをしてきた.

新型インフルエンザも,「豚豚インフルエンザ」から,「豚人インフルエンザ」に代わり,さらに「人人インフルエンザ」となって世界的に流行している。

日本でも高校生を中心として感染者が増えてきたが,いわゆる「水際作戦」というのが「入国者全員の10日間程度の足止めと,全員の血液検査」という措置を執らなければ,「感染しているが発病寸前」という人が入国するので,水際作戦にはなっていない.

だから日本での感染者が発生するのは,いわば「時間の問題」だったわけだが,なんとなく「水際作戦」で日本国内への感染を止められるとも受け取れる発言があったのは残念だった。

ところで,少しずつだが「事実報道」も出てきた.でも,その数は極端に少なく,まだ世界全体としては庶民にウィルス学の進歩の成果をそのまま公表してはまずいと考えているようなフシもある.

今回は若干,全体を振り返り,今後の状態を考えてみたいと思う。

インフルエンザは「珍しい病気」ではなく,毎年,定期的に蔓延する病気であり,その感染速度,死亡率,発病年齢分布など多くのことが詳細に調べられている。

従って,現在,流行中のインフルエンザが「毎年のインフルエンザに比較して,感染力,死亡率が違うか」については比較的,初期の段階で判るはずである.

5月に入ってヨーロッパを中心とする機関で「感染力」についての報告がでてきた.

一つは,イギリスのロンドン大を中心とする世界保健機関(WHO)の研究チームで,一人の患者が他の患者を感染させる数は,1.4~1.6人(平均1.5人)であるとした.

また,フランス国立衛生研究所などの研究チームは2.2人から3.1人(平均2.7人)という研究結果を発表している。

このことから,どの程度,感染が広がるかが分かる.インフルエンザの場合,発病した人が近くの人に感染させる平均的な時間は4日から5日だから,これを4.5日とする.

仮にイギリスの研究結果のように,1.5人の場合,1人の感染者がでた地域は,その1ヶ月後に15人の感染者が出ることになる。

これに対して,2.7人なら,750人になるわけだから,2つの研究チームの結果を比較すると15倍も患者数の違いがでる.メキシコなどの例を見るとイギリスの結果が正しいと考えられるので,この場合は1.5ぐらいを考えておいた方が良いだろう。

また,死亡率は現在のところ0.4%で,全世界で4000万人が死んだスペイン風邪の2%200万人が犠牲になったアジア風邪の0.5%より低いが,今のところ,毎年のインフルエンザの死亡率0.1% (日本の場合,1500万人が感染し,15千人が死亡し,全世界では推定4億人が感染し,40万人が死亡する.)より高い。

感染力と死亡率はこれからの状態で変わるだろう。

死亡率は,メキシコの医療費が高いので,初期の患者が病院に行かなかったということがあり,それが本当なら0.1%ぐらいのレベルまで低下する可能性がある.

一方,感染力は老人などに対する感染の調査が行き届いていない可能性もあり,今後は増えることも考えられる。

全体としてはこのような感じだが,日本のマスメディアはまだ誤報体質が直らず,フランスの研究チームの「感染力」を「最大で3.1%」と報道した.

これはNHKが温暖化について「IPCCは100年後に最大で6.4℃」と誤報したのと同じで,本来は平均2.9℃というのがIPCCの報告に書かれていた数値だ.

これは,NHKが第一に「国民に事実を伝えるのが報道機関に任務ではなく,危険をあおるのが任務」と固く信じていることによる.

第二の原因は「確率」を知らないからだろう。「平均値」というのも厳密には統計の取り方によるが,ほぼ普通の常識の平均と同じである.しかし「最大値」というのは「どのぐらいの確率で起こることか」によって大きく変わる。

たとえば,統計的には「68%程度の確率(1σ)か99.7%の確率(3σ)」が多く利用されるが,どちらを取るかでまったく数値は変わってくる。

つまり,それを同時に記載しないと,最大で3.1人とか6.4人というのは意味のない数である。NHKは「最大で」と言って良いわけができると思っているのだろう。

このような報道を私は「悪徳生命保険会社のセールスマンの方法」と言っているが,NHKが単に最大で6.4℃というのだけいうというのは,生命保険を勧誘するときに,「日本人は40才で無くなります」というのに近いからだ.

40才でなくなる可能性はある.可能性がある範囲だから,平均寿命の80才を言わずに40才だけ言っても生命保険の勧誘で倫理違反はしていないと強弁するようなものだ.

あくまでも最初は平均値が問題である。

ところで,現在までの新型インフルエンザのデータを見ると,若い人からせいぜい壮年ぐらいの人が感染者の中心で,老人の感染者や犠牲者は少ない.このことは今度の新型と言われるインフルエンザは単に「見いだされた」と言うことかも知れない.

つまり,コロンブスのアメリカ大陸発見というのはヨーロッパ人から見ればアメリカ大陸を発見したのであり,そこには大昔から人が住んでいるのだから,その人たちから見るとなにも「発見」でも何でもないのである。

新型インフルエンザが新型でないことを祈りたい.

(平成21517日 執筆)