55才から64才までの人に「老後は不安ですか?」と聞いたら,4分の3が「不安だ」と答えたというアンケート結果が発表されていた。 不安の原因は,「病気,年金,介護」だった.

現在の日本に住んでいると,老人になってこの3つが心配なのは当然のように感じられる。 歳をとれば病気になるのだし,年金は社会保険庁の不祥事が続いているし,さらに介護は永遠の問題だ。

ところが,少し考え直してみると,「不安は人為的に作られたのではないか?」という疑問がわいてくる。

軍人恩給などの特別なものではない「一般人向けの年金」が始まったのは,1961年だった。 なぜ,年金が始まったのかというと,それまで「歳をとったら子供や親戚に面倒を見て貰う」という日本流のシステムを止めて,個人が自分で死ぬまで自分のことに責任を持つようにするということになった.

その時代,「ゆりかごから墓場まで」と言われた.そしてイギリスやスウェーデンなどの先進国の社会が紹介され,「素晴らしい時代が来る」と信じて,多くの人は少ない給料から年金を払った.

「老人になるのが怖い」という悪い状態から,「安心して老後を迎えられる」という社会へ変わるはずだった.

ところが,次第に社会が高齢化すると,まず医療費,そして介護の問題が出てきた.これも当然と言えば当然で,寿命が延びて,高齢者が増えれば医療費は上がり,介護も必要なのはいわば当然のことだ.

そんなことは,それこそ,最初から分かっていることで,日本政府(官僚を含む)は,成熟した社会,平均寿命が長くなった社会における問題点をあらかじめ想定して,それに応じることが出来なかった.

そこに年金を取り扱っていた社会保険庁の連続した腐敗,不祥事が明るみにでる.計画も無い.長期的見通しもない,年金は着服する・・・どうしていたのだろうか?

「ノーパンしゃぶしゃぶ」や「道路公団との癒着」ばかりをしていたわけではないだろうが,日本政府は,全体として将来問題に対する力を失っているような気がする。

国民年金が始まって45年,「ゆりかごから墓場まで」が提唱されて数10年,予想していたことが起こったのではなく,思考が止まっている欠陥がでたということだろう.

社会は大きく変化させなければならない.自民党,民主党の枠では解決しないのではないか?

今,環境でも同じことが起ころうとしている.「文句ばっか言っていないで,やらなければ,なにも出来ないじゃないか」という単純な理由で,意味の無い環境対策を続けている。

でも,政府は,頭が回らないから意味のないことをしてもよいということではない. この際,高齢化問題がなぜ解決できずに,「悪い方向に進んだのか?」について,政府の反省と,政治学,社会学の鋭い解析や活躍を期待したい.

(平成21329日 執筆)