環境や資源というのは,そんなに簡単ではないのですが,時に,「CO2が悪い」となるとCO2ばかり,「石油が無くなるのが悪い」となるとそればかりになりますが,すこし立ち止まって考えてみたいと思います。.

今,環境を破壊するとして心配されている地球温暖化の原因はCO2と言われていますが,CO2の多くは石油を燃やすことによってでます.だから石油が無くなれば人間が出すCO2はずっと少なくなります.

その意味でも,現代の環境を考える上で,温暖化のことが気になる人には「石油が枯渇する」というのは良い方向なのです。

もちろん天然ガスや石炭はありますが,石油ほどには使いやすくないので,自然にCO2は減るのは間違いありません.反論もないと思います。

まず,事実を冷静に調べましょう.科学的なものは,あまり最初から推定したり,噂を信じたりせずに,ジッと我慢をして勉強することから始めることです.

原油は大昔の生物が大陸の移動や地殻の変動で閉じ込められ,そこで高い温度と圧力のもとですこしずつ形を変えてきたものと考えられています.

「石油,無生物起源説」というのもありますが,まずは標準的な考えで出発したいと思います。 そして,私たちが日常的に知ることができる灯油などはすでに精製したものですので,透明でわずかに褐色に色がついているだけですが,地下から掘り出した原油(地下にある石油を原油と言います)は真っ黒で,「これが石油か!」とビックリするほどです.

それはもともと生物の体の中にイオウのような元素がありますし,地下のいろいろな物質も混じりますから,原油のみかけはとても汚いものです.

ところで,原油がとじ込められている地形がどんなところか,すでによくわかっています.地下に油やガスが閉じ込められるのですから,お椀でふたをするような形をした岩盤があるところですし,昔は海だったところが,今は陸になっているというところも油田がある可能性があります.

そんな知識を元に,これはという場所でパイプを地下深く差し込み,原油を探していくのです.その結果,これまでに発見された経過を示すグラフが次のものです.

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グラフの横軸は西暦です.石油が本格的に使われるようになった1930年ぐらいから2020年までの幅で示しています.また縦軸は億バレルです.石油は昔は樽(たる,バレル)で運んでいましたので,今でもバレルという単位を使っています.

黒い棒グラフがその年の原油の発見量で,山のような形をした黒の線が,それを「なめらかに」したものです.それ以外の線は,とりあえず今日のところは関係がありません.

「なめらかにする」というのは,ある年には大きな油田が発見され,次の年にはあまり油田が発見されないと,グラフは複雑になります.でも,それをある程度平均すると,原油が発見される傾向がよく判断できます.

ですから,これからは平均的な動きがわかるので,「なめらかにする」ということを科学では良くやります。 ここでも,黒のなめらかな線を用いて説明していきます.

20世紀の初め,まだ石油はほとんど使われていませんでしたので原油の発見量も少なかったのです.戦争が始まった頃(1940年頃),石油の消費量はどんどん増えてきたので,それに伴って原油の採掘も盛んになり,一年に100億バレルも発見されるようになりました.

そして,戦争が終わってますます世界が発展すると,原油の発見量もどんどん上がり,1960年代には実に毎年400億バレルという膨大な量の原油が発見されるようになったのです.

原油の発見量が最大になった1960年というのはどのような年だったのでしょうか?

戦争が1945年に終わって,戦勝国のアメリカやヨーロッパは1950年代に大きく発展しました.それは日本で言う「高度成長」に当たる時代でした.

そして1960年代は少し遅れて日本が高度成長に入ります.つまり,世界の先進国がどんどん発展する時代でした.

多くの人が少しでも石油が欲しいと思っていたこの時代,その期待に沿うように新しい油田も次から次へと発見されていったのです.

「必要は発明の花」といわれますが,人が何かを強く望むと,人間の知恵が働いて,それに応えます.それこそ「人間の知恵」なのです.石油が必要になると探査や掘削技術が進んで,次々と油田が発見されていた時代でした.

ここまで石油の時代に入ってから半世紀を見てきましたが,二つのことに気がつきます。

一つは,

石油が無くなると言っても,100年前までは人類はほとんど石油を使っていなかった,

と言うこと.

もう一つは,

1970年の初めには「石油が足りなくなる」という話になり,それが石油ショックにつながるのですが,その寸前まで,まったく人類はそれに気がつかなかった,

ということです.

同じ文化はそれほど長くは続きません。 石油の時代は150年ほどで終わろうとしていますが,それもこれまでの人類の歴史と同じなのです.

そして人間が「未来を見ることができない」ことも教えてくれます。この問題は後にも触れますが,人間の心は傲慢で「私は知っている。判断力がある」と思ってしまうのですが,それは「昨日までの知識の範囲で」という前提が付いているのです。

(平成21年3月5日 執筆)