「最高裁判官でもごまかされる」というと,「最高裁判官だからごまかされるのじゃないの?」というシニカルな合いの手が入るような気がしますが,誤報の恐ろしさを一つ示してみたいと思います.

ダイオキシンが「人類が作り出した史上最強の毒物」という奇妙なコピーが日本社会全体に蔓延していた頃,テレビ朝日のニュースステーションで,久米宏氏が「所沢のほうれん草がダイオキシンに汚染されている」と放送したのです.

この放送で,所沢の農業は大打撃を受け,訴訟に発展しました.

自分のことでないので,ああ,そんなこともあったなと思い出す人もいますが,もし自分が所沢で農業をしていたらたまりません.

あっというまに「所沢の野菜は食べてはいけない」ということになり,どうしようもなくなったのです.

訴訟は最終的に和解しましたが,その前に最高裁判所が「報道は間違っていた」という結論を出したので,テレビ朝日が不正確な報道をしたことは法律の面では確定しました.

この時の最高裁判所の判決の中で少数意見というのがあり,それは「報道自体は不正確であったが,ダイオキシンという猛毒の対策が進んだことには意味があった」という内容でした.

この少数意見を書いた最高裁判所の裁判官は,今深く反省しているでしょう.

なにしろ「ダイオキシンが猛毒だ」という前提自体が間違っているのです.正確に表現すると,ダイオキシンが猛毒だという誤報に基づいて,ダイオキシンの対策に大変な税金と労力を使ったのは,全部,間違いだったということだからです.

この裁判官の意見を読んでみますと,驚くべきことに「ダイオキシンは猛毒だ」と思っているのです.そしてなぜそう思ったかというとテレビの誤報だったのです.

テレビの誤報を裁いている裁判官が,テレビの誤報ですでに洗脳されているのですから,どうにもなりません.

実際にダイオキシンでは一人に患者さんもいないし,将来にわたって患者さんが出る可能性がないことは専門家が論文を書いているのですから,最高裁判所の裁判官も謙虚に専門家の論文に目を通さなければなりません。

自分がテレビや新聞しか見ないで,理科系のことは分からないということを前提にして人を裁くなど,もってのほかです。

でも,このことは私たちに良い教訓は与えてくれます。 人間はすでに頭の中に構築されている先入観を正しいと仮定して判断し,時に「誤解に基づいて人を裁く」ことすらするということです.

さらには,もちろんテレビ朝日も「結果的にダイオキシン規制につながった」とその正当性を主張していますが,それは「日本全体のためには,罪のない所沢が犠牲になっても良い」という実に強権的・全体主義的な考え方です.

「環境のことなら誤報はかまわない」,「目的が正しければ手段は違法でも良い」という革新と不文律がマスメディアにあり,それをNHK等も使っていますが,ダイオキシンが本当に猛毒なら誤報など無くても十分に社会をダイオキシンから守ることが出来ます.

いったい,「人類が作り出した」とか「史上最強の毒物」などという間違った言葉を作り出した人は誰でしょうか? そして,その言葉を良く自分で調べもせずに,受け売りで言った人は誰なのでしょうか?

(平成21221日 執筆)