アメリカ合衆国第37代大統領リチャード・ニクソン氏が,なぜ「法と秩序」を旗印にしたのかは不明である。
当時、ベトナム戦争反対の世論のもと多くの若者がヒッピー化してアメリカ社会が揺れていたことがその理由と言われている。
でも,数年前,あのケネディ大統領と争い、選挙で敗れた一つの原因が「禁酒法」時代に荒稼ぎをしたケネディ陣営の選挙違反の恨みとも考えられる。この世はあざなえる縄のごとしである.物事は表面に現れたことだけが事実ではない.
ところで,「法と秩序」を回復しようとしたニクソンは,「薬物規制法」に基づいてペンシルバニア州知事の経験のあるロイヤルド・シィーファ氏を委員長にする「マリファナ及び薬物乱用に関する全米委員会」を開らく.
マリファナは痲薬と言うことになっているが,実はその毒性とその社会的な影響については,検討が進まず、常に社会の「追放」のヒステリーとそれに対抗する勢力との争いがあったからだ。
ニクソンはその争いに終止符を打つためにシィーファ委員会を開いた。目的は「マリファナは痲薬だ」ということを証明するためであった.
シィーファ委員会は,政治的には1940年代に行われたニューヨーク市長のラガーディア委員会と対をなすもので、ニューヨーク市長は「大麻は麻薬性がないのではないか」と疑って委員会を開き、ニクソン大統領は「大麻を厳しく取り締まらなければならない」として委員会を開いた.
事実,シィーファ氏を初めとして委員会の委員の内、過半数をニクソン大統領自身が選ぶという熱の入れ方だった.
ところが、大統領の思惑に反して,1972年にこの委員会からだされた報告では、ニクソン大統領の思惑とは全く別の内容となった.
シーファ委員会の結論
一、マリファナを吸うことによって、身体機能の障害についての決定的証拠はなく、きわめて多量のマリファナであってもそれだけで人体に対する致死量があるとは立証されていない.
二、マリファナが人体に遺伝的欠陥を生み出すことを示す信頼できる証拠は存在しない.
三、マリファナが暴力的ないし攻撃的行為の原因になることを示す証拠もない.
結論として
「通常の摂取量ではマリファナの毒性はほとんど無視して良い.」
とし、さらに同委員会の次の年の報告では、
「マリファナの使用は、暴力的であれ、非暴力的であれ、犯罪の源ともならないし、犯罪と関係することもない.」
と断定した.
マリファナに対してこの結論の評価はしない.ここで問題にしたいのは,マリファナの事実より、人間の魂である.
政治的な圧力があったにもかかわらず,学者が独立して自らの学問的な判断をしたのは高く評価される.それから見ると現在の日本の学者が政府の方針にそったことを発言するのは実に情けない.
和魂,洋魂に敗れた.実に残念だ.
その後、ニクソン大統領はこの報告に烈火の如く怒り、自分が作った委員会の報告書の受け取りを拒否したと伝えられている.
でも,大麻についての科学的事実が変わるわけではない.アメリカでは1975年に大麻の医学的な会議、1991年にハーバード大学の調査など主として医学系の研究会が開かれたが、シィーファ委員会以外の結論は得られなかった.
ここでは大麻について,それが良いとか悪いとかは言わない。それより専門家が,たとえ政府に命令されようとも、それが任命権を持つ大統領であろうと,自分の専門の命令に従うことが魂である。
残念! 実に残念! 今の日本の専門家はメタボといえばメタボ、リサイクルと言えばリサイクル、そして温暖化に20億円がでれば,それに従う。
私はアメリカ人より日本人がより高い魂を持って欲しい。それは「誠実であれ」ということだ.社会に流されることなく、損得を考えこと無く、かかあとがきの飯を稼げば,後は誠実でありたい.
(平成21年1月7日 執筆)