人間の体は、「不要になったものを片付ける」ということができるようになっています。お腹いっぱいにごちそうを食べれば、しばらくしてトイレに行きたくなります。もし、食べたものが全部、栄養になるのだったら、トイレに行かなくてすむのですが、実際にはそうはいきません。

この世の中は「必要なものだけ使って、あとは何も残らない」ということはないと科学的に証明されています。

その一つが血液でしょう。

人間が生きていくためには、ひとときも空気がなければなりません。それは空気の中の酸素を口や鼻から吸い込んで肺の中で血液に溶かし、それを体中の細胞に運ぶのです。細胞では運ばれてきた酸素と、グリコーゲンなどの栄養を反応させてエネルギーを出し、それをもとにして生きているのです。ちょうど、自動車にガソリンを入れて、エアーフィルターから空気を取り入れて走るのと同じです。自動車も、ガソリンという栄養と、酸素がなければ走りません。

でも、細胞が生きていくためには、グリコーゲンと酸素を使い、それだけ「汚いもの」が出ます。「何かすると、かならず何かが残る」という原理原則が働くからです。

そこで静脈が細胞から出た「老廃物」を静脈が運搬します。その老廃物はあるいは肝臓にいって毒物を分解し、腎臓でろ過していらないものをおしっことして出します。

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上の図は体に血液が流れて行く図ですが、心臓から勢いよくでた血液は動脈を通って細胞に行き、静脈で使い終わった汚いものを運んで肝臓や腎臓で綺麗にして肺に入り、再び、新鮮な血液になります。

血の流れを見てみますと、動脈に流れる血より、静脈を流れる方が多いのです。だいたいの数値ですが、動脈の血を1とすると静脈の血はその3倍ぐらいあると言われています。つまり体中を循環する血の実に75%が「汚れたちを再び、綺麗にするため」に回っているのです。

「新しいものを使うと、その3倍は掃除に時間がかかる」と言っても良いですし、「何かしようとしたら、その効率はせいぜい30%ぐらいだ」と考えても良いでしょう。

ところで、生活をしていると体の中に毒物やばい菌が入ってきます。ばい菌が入ってきたら白血球などがばい菌と戦い、やっつけてくれます。でも水銀やヒ素のような有毒な元素が入ってきたらどうするのでしょうか?

そんな場合も人間は秘策を持っています。それが「髪の毛や爪」です。

髪の毛は、頭の方に回っている血液から毎日のように作られます。頭の皮の少し下に「毛母細胞」というのがあります。頭の毛の母親という意味で毛母という名前がついています。

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この毛母細胞の中では、近くを通る毛細血管からアミノ酸をもらって、頭髪を製造するのに余念がありません。何しろ、毛髪も太陽には照らされ、ゴシゴシこすられ、時には熱をかけてパーマしたりしますからドンドン傷みます。もともと、髪の毛は頭を守るためのもので、痛んできたら替えるようにできています。

そこで毛母細胞が活躍するのですが、その時、細胞が使うアミノ酸に特徴があります。イオウや窒素などを含む特別なアミノ酸を多く使って髪の毛を作ります。そして、このアミノ酸は二つのことに役立ちます。

私たちが髪の毛をパーマするときには、薬品を使って熱をかけますが、これは毛母細胞が利用するアミノ酸の中のイオウに目をつけて反応させ、髪の毛が自由に動けなくする方法です。

もう一つ、おそらくこれが毛母細胞の作戦と思いますが、このアミノ酸のイオウと窒素を使って血液の中から水銀やヒ素を取り出し、それを髪の毛の方に移すのです。もともと、イオウや窒素があると水銀やヒ素、あるいは他の重金属といわれる有害なものは引きつけられます。その性質を利用して、毛母細胞は髪の毛を作りながら、知の中から水銀やヒ素を取り除くという器用なことをしているのです。

やがて、髪の毛が伸び、最初は髪の毛の根元の方にあった水銀は徐々に、毛の先端の方に移動します。そして君たちが散髪にいって髪の毛をばっさり切り落とすと、その時に髪の毛と一緒に水銀が体の外に出されると言うことになります。

このようなことは、髪の毛ばかりではなく、爪もそうです。爪も毎日の生活で痛みますから、新しい爪を毎日作り、伸びていきます。そして爪を新しく作る時に、有害物質を入れていきます。「爪を切る」というのは「体の中から少しずつ有害物質がのぞく」ということでもあります。

人間の体は素晴らしいですね!

でも、人間だけではありません。たとえば、樹木は秋になると紅葉してやがて落ち葉になって樹木から離れますが、その時に、樹木の中の廃棄物を落ち葉に詰めて落とします。

自然は素晴らしいですね!

ここで急に歴史の時間になりますが、今から200年ほど前、フランスにものすごい人が現れます。その人の名前はナポレオン・ポナパルト。後のフランス皇帝になってヨーロッパ全体に大きな影響を与えた歴史的にも有名な人物です。

ナポレオンの話はそれだけで一冊の本になりますから、ここでは詳しく彼の人生を話すことができませんが、地中海に浮かぶ小さなコルシカ島で生まれ、南フランスからパリに行ってたちまち頭角を現し、偉大な皇帝にまでなります。

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コルシカ島、砲兵隊、アウステルリッツの三帝開戦、マリー・ルイーズとの結婚、モスコーへの侵攻、ワーテルローの戦い、そして最後には皇帝の座を奪われてセントヘレナ島に流されるまで多くの物語がかけるほどの人生でした。

ナポレオンの最後は、セントヘレナ島に閉じ込められ虐待を受けて6年で死亡します。死んだときの診断は胃がんでしたが、その後、毒殺されたとの噂が絶えません。

そこで、パリ警視庁・法医学研究所がナポレオンの遺髪を分析して、そこからヒ素を見いだします。つまり、髪の毛は伸びますし、ヒ素や水銀が集まるので、それを分析して、その人が何かで毒殺されたかなどを調べることができるのです。

髪の毛が、体の中に入ってきた水銀やヒ素を取り除くこと、散髪屋に行くのはさっぱりするためでもありますが、その時に毒物を体の外に出す目的もあること、そしてナポレオンがなぜ死んだのかを調べることができることなど、髪の毛を一つとってもおもしろいことが多い人間の体です。