あるお父さんは「結婚前にフィアンセと性的交渉をするなんて、とんでもない!」と怒る。

 その横でどら息子が「なに言っているんだ。おやじ、そんな古いことを言っていたら、ボケるぞ!」といって、玄関を出て行く。

 お父さんはお父さんで、息子は息子でその時代に生きている。かつて、大規模な世論調査が行われた中に、「婚前交渉は是か非か」という設問があった。20年にわたる調査だった。このホームページにも解説したことがあるが、再掲する。(ネットに掲載するときにグラフの位置が文章の下に入ってしまいますので、最後にグラフを示しました)

 複雑なグラフだが、このグラフに「なんで、うまくいかないのか」のもう一つの真実が示されている。

 調査は1970年から1990年まで20年間、行われた。最初の調査では「婚前交渉は認められない」という人が多かったのに、それから20年も経つと、多くの人が「良いじゃないか」ということになる。

 グラフの線はだんだん右にずれている。

 人間は、もともと事の本質から考えて「良い悪い」を考えることは少ない。むしろ「みんながやっているから良いじゃないか」と考えるものである。だから、「みんながやること」が、そのうち「正しいこと」に変わる。

 だから、我々は「時代の子」になり、「婚前交渉は良い」と言うことになる。そこで、困ったことだと古い時代の人は嘆く。

 ところで、このグラフのおもしろいのは、「一人の人に注目して見る」ということだ。たとえば1970年に30才だった人の回答を見てみよう。つまり黒い線を見ると、横軸が30才のところは「40%」だ。

 つまり、1970年の時に30才の人は、その10人に4人が「婚前交渉はダメだ」と答えている。

 次に赤い線、つまり1980年の時の調査を見てみよう。10年前に30才だった人は、その時、40才になっている。だから40才のところの赤い線を見ると、「40%」なのだ!

 つまり、「1970年に30才だった人」というグループを見ると、10年経っても意見は変わっていない。そればかりではない。また10年後、そのグループは50才になっても「40%」なのである!!

 つまり「時代が変わったから人の心が変わった」のではなく、「一人一人は変わらないが、お年寄りがいなくなり、新しい人が入ってくるので、見かけ上は“正しいこと”が変化する」ということが、「変化」の本質なのだ。

 つまり、一人の人間は「その人が生きた時代」によって「その人が正しいと思うことが決まる」ということを意味している。これを言い換えると「人は、一人一人、人生と経験が違うのだから、正しいと思うことが違うのが当然だ」ということである。

 「ああ、なんで彼はわからないのだろうか!」と嘆く。「ああ、うまく行かない!」と悩む。

 でも、自分の思うとおりに行くはずもなく、自分が正しいと思うことに同意してくれないのが当たり前である。それなのに、多くの人は「正しいのに、納得してくれない」と悩む。

 実は、そう考えること自体が正しくないのだ。自分にとって正しいだけで、他人に取っては正しくなく、特に「世代と育つ環境が違うと、意見は違う」のが当然なのである。

 相手を説得することはできない。ただ「私はこう思う」と言うことが出来るだけである。

 そう思って、周辺を見渡すと、きっと「ああ、そうか!」と思うことがあるはずだ。

(平成20101日 執筆)

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