フランス人は節約する。
どこをどのように節約するかと聞かれると何となく答えにくいがとにかく節約家だ。あまり新しいものを買わないし、少しぐらい不便でも何とか使いこなす。
なにしろ日本人と比べると「買ったり使ったりする量が少ない」ということだ。だから、フランス人が日本に来ると「なんて、贅沢なんでしょう!」と驚く。
かつてフランスにたびたび行っていたことがある。ある時、お土産に婦人物のバッグを買おうとして「ブランド品の店ではない普通の(立派な)店」に入ってバッグを選んでいた。
しばらくして、店長が日本で売っているブランド品に比べて格段に安いバッグを勧めてくれて、私が「安すぎる」と難色を示していると、「なんで、こんな素晴らしいバッグでもダメなのですか?」と怪訝な顔をしていた。
私は「ブランド」を買おうとしていたのだが、彼は「商品」を勧めていたのである。 当時の私は物にとりつかれていた。
なぜ、フランス人は節約家なのか? この問いには次のように答えたい。
フランス人は少し辛いところもあるし、品が悪い表現では「くえない」とも言える。でも、その反面、人間としては独立していて、「自分の人生」というのを感じる。
それはフランスの教育によるのだろう。小学校の教科書や試験問題を見ると、「よい子」になる教育ではなく、「人間としての独立、尊厳」を育てる教育のように思う。
彼らは独立している。そして自分の人生は何をするのか見えている。だから、「物」にはあまり依存しなくても良いのだ。 物を節約してもまったく不満は生じない。
それに対して日本人は「個」が独立していない。大人になっても、人により添い、寄っかかっているところがある。そして「物」にも頼っている。そしてもっとも大切な「人生の意味」は中途半端にしか体得していない。
だから、日本人には「物」がいる。心が成熟し確立していれば、自然と物には頼らずに節約する。節約しても本人は特にそれを意識している訳ではない。
私は「リサイクル」、「節約」、そして「3R」などはすべて嫌いだ。それはあまりにも「物」だけに注目し、そして「みんなで監視して守ろう」としているので、まるで日本国民全員が幼児のように感じられるからだ。
フランスはパリを大切にし、誇りにしている。それは「パリこそが世界でもっとも文化の香りの高いところだから、必ずみんながパリにあこがれるはずだ」という確信があるからだ。
実は私もパリに行くとその香りに酔ってしまう。ヨーロッパ嫌いの私でも心の充実を感じることは心地よい。パリはその精神性の高さから芸術家、数学者、ショパン、キュリー夫人、ガロアなどを引きつけ、そして今でも「花のパリ」である。
日本にもかつて、文化の香りがする町があった。西田幾多郎、室生犀星、泉鏡花を出し、旧制第四高等学校が城跡にあった金沢などもその一つだった。 現在のことは言わない。
もちろん、学問だけではない。武士道も日本画も凛とした魂と覚悟で私たちに迫り、日本人の誠を示してくれた。それは日本人の誇りだった。
今、日本の都市で「お金」や「飲み屋街」で誘ってくれるところは多いが、できれば文化で誘われたい。悪口を言うわけではないが、すすきの、東一番町、六本木、錦、北新地、中州、天文館・・・私が思い出すところはやや・・・と思う。
日本の環境問題が解決するとき、それはCO2でも何でもなく、外国人が日本文化にあこがれて訪問してくれる時だろう。
(平成20年9月29日 執筆)