今から30年ほど前まで、「他山の石(たざんのいし)」ということわざが日常生活の中でも、多く使われた。

 「他山の石」というのは中国の詩集「詩経」に出てくるもので、「他山之石、可以攻玉」と書かれている。その意味「他の山にあるどんなつまらない石でも、自分の宝石を磨くのには役に立つ」ということだ。

つまり、わかりやすく言うと「他人のどんな行いや言葉でも、自分を向上させるのに役に立つ」ということだから、「人の振り見て我が振り直せ」でもよいだろう。

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 「なぜ、中国は食べ物にメラニンなんか、入れたのだろう?」

とある人がつぶやいていた。このことを「他山の石」としてみるか、「対岸の火事」とするかによって少し考え方が違う。

 もし他山の石とすれば、「このことから日本は何を学ぶか」ということになり、対岸の火事なら「中国はダメだなあ」ということになる。やはり他山の石の方が良いだろう。

 ここで詳しく示すことは出来ないが、明治の昔、当時の強国ロシアと日露戦争を戦い、日本海海戦で大勝利を得たのは、「日本人の誠実さ」だった。

 国民は臥薪嘗胆、勤勉と節約に努め、そのお金で政府はギリギリではあったが、数隻の戦艦を買った。戦闘訓練も下瀬火薬もすべて日本人の誠が生み出したものだった。

 戦後、日本の工業が世界一になったのも、製造現場で名も知れぬ一人の従業員が、賞賛されることもなく、罰せられることもないのに、欠陥のない立派な製品を作ったことによる。

 私はその当時、製造現場にいて、日本人の従業員がいかにまじめに、自分の損得から離れて仕事をしたか、それが後のマスメディアによって「3K」と呼ばれるようなところでも、決して大げさな表現ではなく「歯を食いしばって」やっていたことを知っている。

 それが日本を支えたのだ。だから、日本で最も大切なのは「日本人の誠」である。

 今後、中国がどのようになるかは別にして、今のところ中国の食品工場は「中国人の誠」に欠けているように思う。

 もし、誠実であれば、「タンパク質を使うとお金がかかるけれど、メラミンを入れておけば窒素含量を多くできるので、安くできる」とは考えない。かつての日本の従業員なら「タンパク質を使うと言うことになっているのだから、プロはそれを忠実にやる」ということになる。

 今の日本の官僚なら怪しいが・・・

 その社会が発展するか、そこに住んでいる人が幸福な人生を送ることが出来るか、それとも、いつもゴタゴタして、イヤな毎日を送るか、それはそこに住む国民の「誠実さ」にかかっている。

 メラミン事件を「他山の石」にしたいものだ。私はどんな理屈より、誠実さが大切だと思う。なんとか言い訳ができる「ギリギリのウソ」がもっとも危険だ。

(平成20927日 執筆)