森林がCO2を吸収するかという「科学的課題」を考える時、「温暖化を強調したい」とか「温暖化はたいしたことはない」などと自分の意見があっても、それに左右されてはいけない。

 科学は科学として考え、その結果とそれまでの自分の考えとを比較するという2段階が必要だ。

 常に、事実→解析→意見→感情 でなければならず、 感情→意見→解析→事実 であっても、利権→意見→解析→事実 であってもダメだからである。

 さて、本題に入ろう。

 もともと原理的には森林はCO2を吸収しない。それは、樹木の体は、成長するときに空気中のCO2からの炭素(C)で作り、それと同じ分だけの酸素が空気中に放出する。

 樹木が死ぬ時には、体(C)と空気中の酸素(O)が結合して元のCO2に戻るからだ。基本的にはこの原理原則は正しい。

 でも、実際には森林が育ってから、枯れて土の中に埋まり、微生物によって分解されない樹木がある。だから、少し収支はずれる。

 IPCCが第二次報告(1995)で示した世界全体の収支は、ネットでCO2は炭素換算(以下同)で次のようになっているとしている。

南方の森林  17億トンの放出

北方の森林   7億トンの吸収

差し引き    9億トンの放出

 つまり、南の森林は伐採されたり、微生物の活動が盛んなので、収支は赤字で17億トンものCO2を「放出」しているが、北方の森林は伐採も少なく、寒いので微生物の活動も不活発だから、7億トンのCO2を「吸収」していると言う。

 この数値に疑問をもったアラスカ大学の福田先生が具体的にシベリアの森林でCO2吸収の実験を行っている(その詳細は「エネルギー・資源」という雑誌の26(2004)に掲載されている)。

 まず、微生物の活動の不活発な北方の森林は、

森林が育つときの吸収  

259g/m2

分解などででる

CO2      173g/m2

差し引き

                  86g/m2

となっている。つまり、北方の森林は微生物の活動が不活発なので、約3分の1CO2は固定されると言う結果である。

 ここで、少し脱線するが、日本の林野庁も農水省の一組織だけあって、誠意のない「森林吸収量」を示していることに触れておきたい。

 林野庁が「森林はCO2を吸収する量」として小学生などに教えているのは、成長の時に吸収する量だけである。それは林野庁の公式ページに載っている計算式でハッキリと示されている。

 でも、森林はもともと吸収した分を放出し、北方の微生物の活動が少ない地帯ですら、3分の1しか固定しないことは全く触れていない。南方ならもっと少ない。

 ところで、日本の中央官庁の幼児化現象にあまり時間をとるのはもったいないので、先に進む。

 前の数字は「森林に何も起こらなければ」ということだが、実際には森林には、火災、洪水、害虫などの天変地異が次々と起こる。それでは現実の森林はどのようなものだろうか?

 シベリアでは火災で消失する森林は一年で1000ha程度だが、この森林火災の分のCO2を補うためには、10ha程度の健全な森林がなければならないが、実際にシベリアの森林面積は25000haしかないから、到底、火災によって増えるCO2を回復することはできない。

 つまり、もともと森林がCO2を吸収するのは北方の森林だけだが、さらに「火災を防止する技術」が進まないと、世界のどこの森林も「CO2を吸収できない」と言わなければならない。

 もし、温暖化の防止が「森林の保護技術が上がったら」という注釈がつくなら別だが、現実には南方の森林はCO2を放出しているし(開発などを含むから)、北方の森林も火災を防止できなければ収支は赤字になる。

 森林の専門家、環境の専門家、そして森林保護や温暖化防止を訴えている市民団体などはこのことをよく知っている。それなのに、「自らの立場を有利にするために、データを隠す」ということをする。

 私が「森林は二酸化炭素を吸収しない」と説明するのは、

1)  まずはCO2と生物の体(C)、大気中の酸素(O)の関係をハッキリさせること、

2)  現実に、森林のCO2収支は「放出」になっているのだから、CO2の削減には森林は役に立たないことをハッキリしておきたい、

と思うからだ。

 最後に、付け足しておきたい。森林によるCO2の吸収とか放出は、増えるにしても減るにしても、せいぜい年間3億トンのレベルだ。これに対して世界各国のCO2排出量は2000年に60億トンで、森林の寄与はプラスにしてもマイナスにしても5%だから、「森林がCO2を・・・」ということ自体が見当外れである。

 専門家の皆さん! 専門家としての誠意を取り戻してください。いくら組織の中にいるといっても、専門家はまず組織人の前に、日本国民です。

(平成20925日 執筆)