安倍総理大臣につづいての福田首相の突然の退陣は、一時、はやり言葉になった“サプライズ”の一つだろう。なぜ、こんなサプライズが起こるのか?
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少し前、防衛省次官、守屋氏の不祥事が報道された時、私は強い違和感を覚えた。それは、1回や2回のことではなく、この次官はずっと業者との癒着が見られたのに、なぜ刑事事件として発覚するまで表面化しなかったのか?ということだ。
小池議員が防衛大臣になって退任したときに、テレビで守屋次官について不可解なコメントをしていた。そのコメントは「私は知っているし、マスメディアの皆さんも知っているでしょ」という感じだったが、私には小池議員の退陣のコメントは理解できなかった。
政治家とマスメディアで情報を占有してはいけない。特に政治家は国民が理解できないコメントをしてはいけない。政治家は国民を代表しているだけで、本人が統治しているのではないからだ。
その後、守屋前次官が逮捕された後の報道を見て、私は「NHKの防衛省担当記者は守屋氏の不祥事は知っていたな。そして防衛省幹部との接触があるNHK幹部もまた知っていた」と思った。でも、「偉い人の不都合を国民に知らせるのは良くない」という判断が働いたのだろう。
でも、防衛省は国民の命をまもる大切なお役所だ。その幹部が特定の業者と毎週のようにゴルフに行き、大臣も接触できないというような異常な事態は、「絶対に、国民が知る権利がある」ことだ。
次は相撲だった・・・・・・
連続的な相撲の不祥事が表面化し、特に稽古場で竹刀を使って暴力をふるっていたということを知ったときに、「ああ、またか」とガッカリした。相撲協会にガッカリしたのではない。組織だからある程度の不祥事は起こるだろう。
NHKは相撲報道を続け、相撲界ともかなり密接な関係にあった。職員の一人をすもう関係の団体の幹部にもさせていた。そのNHKがなぜ刑事事件になる前に相撲界の問題を報道しなかったのかということだ。
すでに週刊誌などで八百長の噂がたびたび出ていたし、アウトローとの関係も取りざたされていた。NHKが相撲をスポーツとして報道するのは良いが、その時に「思いがけなく知ってしまった報道すべき不都合なこと」は報道機関として国民に伝える義務があるし、国民は知る権利がある。
「知る権利」とはなにか? NHKは政府や相撲協会を守る機関なのか、それとも国民の知る権利に応じる機関なのか?
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「サプライズ」・・・この魅力的な言葉で首相の退陣をかたづけるのに疑問がある。サプライズになる原因は「肝心な事実が国民に知らされていない」ということだ。「よい子報道」、「権威に弱い報道」はともに、国民には不要である。本当に肝心なことを報道がいる。
安倍首相の退陣は「持病」ということだ。一国の総理大臣が病気で辞任しなければならないなら、その病名を明らかにしなければならない。もし安倍首相が持病で退陣したなら、NHKはその病名を知っているだろう。それを報道しなければ国民の知る権利はなくなる。
福田首相も同じだ。いくら弁明しても、内閣を改造し、臨時国会の召集日を決め、主力の政策を決めた後、突然退陣すると言うことはあり得ない。その兆候はいくらでもあったはずだ。それを国民が知らない。
今度、サプライズが起こったら、NHKの視聴料は払う必要がない。NHKは国民から視聴料を取り、払わなければ裁判に訴えるとまで言っているが、その前提は国民の知る権利を実行することだからだ。
(平成20年9月2日 執筆)