関東から西の日本の都市が猛暑にうだっていた2008年7月20日、パリは冷えていた。
2008年7月20日
パリの最高気温 20℃
アムステルダム 19℃
シンガポール 30℃
名古屋 36℃
未明、NHKの深夜ラジオはオランダの視聴者とアナウンサーの会話を放送していた。
アナウンサー「そちらの気温は?」
オランダ 「最高気温で19℃でした」
アナウンサー「19℃?!」 と絶句した。
オランダ 「普通ですよ」
アナウンサーが絶句したのはよくわかった。日本は猛暑である。そして「地球温暖化が主要テーマになる洞爺湖サミット」と枕ことばを並べて半年も放送してきた後だ。ヨーロッパも猛暑だと確信をしていたのだろう。
このところ、日本だけが猛暑が続いている。まるで地球温暖化が主要テーマにならなかった洞爺湖サミットの恨みを晴らすごときだ。
でもNHKは夏になっても冷たいヨーロッパを絶対に放映しない。ヨーロッパが猛暑の時だけを報道し、冷たいときには決してニュースを流さない。それは「温暖化が進行しているというイメージを作るために全力で報道する」という姿勢であり、「事実を報道する」という信念を失ってしまったからだ。
どこかのテレビがヨーロッパの冷たい夏を報道することを期待している。そのうちには暑くなるだろう。その時に報道せず、冷たいときに報道したい。日本が35℃でもヨーロッパは20℃であることを。
「パリは燃えているか?」という映画があった。第二次世界大戦でヒットラーのドイツが占領していたパリが連合軍によって解放される。その時に「パリを灰燼にしろ」というヒットラーの命令に背いて、この歴史的都市を残したドイツ司令長官コルテッツ将軍。
彼の英断でパリはその歴史的建造物を今に伝えている。権力に屈せず、自らの判断と信念を貫ける人物だった。たとえ自らが軍法会議にかけられて死を迎えようと、それより自分の魂が大切だ。
NHKにコルテッツ将軍の爪のアカでも飲ませたい。報道の魂は事実なのだから。
(平成20年7月21日 執筆)
(注)
パリは冷えているか?を書いてみたら、気象というものの本質を外れる議論もあることがわかったので、少し説明を加えておく。
もともとヨーロッパのように緯度の高いところが温かいのは、メキシコ暖流の影響であることはよく知られている。だから、温暖化が進んでメキシコ暖流に変化が起こることがヨーロッパで心配されている。
もちろん、名古屋と比較すればパリやオランダの諸都市の気温が低いのは当然である。だから、シンガポールというのを入れておいた。その意味がとりにくかったらしい。
気候は緯度だけでは決まらない。歴史的変化があり、また平年とも十分に比較しなければならないし、気象はおおきく揺らぐものだから数年前のように緯度の高いヨーロッパが熱波におそわれることもある。
でも、私がこの文章で書いたのは、「異常な気象だけを報道する。特にある方向を持っている」という報道が正しいかを問い直したのである。NHKの視聴者は「NHKの報道を見ていれば、「正常な状態」とか「事実」を知ることができるのか、それとも「異常」だけを知るためにテレビを見るのかという問題も提起したかった。
もう少しまじめに報道というものを考えてもらいたいと私は思う。