政府は盛んに「家庭で二酸化炭素の削減に努力しよう」とか、「あなたに何ができますか?」などと呼びかけている。
あるシンポジウムで、「政府も環境政策を打ち出し、国民も協力しているのに、なぜ二酸化炭素が減らないのか?」という質問がでたが、この質問に政府はまじめに答えなければならない。
「国民が協力しない」などと言ってはいけない。リサイクルにしても、クールビズにしても、国民はかなり政府の政策に協力しているけれど、二酸化炭素はさっぱり減らない。
このことを、
1) 具体的な行動面から、
2) 日本全体の仕組みから
考えてみたいと思う。
まず、月給が30万円(年収400万円程度)の人がどうやって二酸化炭素の削減に協力するかということだ。税金、年金、保険、NHK視聴料、新聞購読料、水道、電気、ガスなどを差し引いて26万円(実際にはこれほど残らないが、その場合は月給が少し高かったとする)、それに家賃が8万円で、生活に使える手取りは18万円である。
18万円から、食事代、子供一人の保育費、家族の衣服などの出費、それに軽自動車の維持費などがまずはどうしてもかかる。時にはテレビが地デジになるので買い換えたりもしなければならない。交通費、携帯電話代、交際費、いざというときの為にわずかな預金もしなければならないので、生活は楽ではない。
この親子三人の家庭が「政府の政策に協力して二酸化炭素を減らそう」とした場合、何ができるだろうか?
まず、政府の言うとおり電気を節約しようとしても、もともと生活に余裕はないので、節約できない。でも、月5千円の電気を4千5百円にしたので、少し生活が楽になり、それで家族でドライブに行った。
妻が「電気を節約しても、ガソリンを使って良いの?」と聞くので、返事ができなかった。電気を節約しろと政府は言っているけれど、それで浮いたお金をどうしろとは言っていない。
もしかすると、消費税を上げると言っているから、それに当てろと言っているのかも知れないが、消費税をあげた分は誰が使うのだろうか?おそらく、政府の天下り団体の役員給与と施設の設備費になるから、それも「二酸化炭素を出す」という点では同じではないか。役人も給料が増えた分は電気をつけるだろうから。
電気代が浮いた500円で子供のおもちゃを買ってやったほうが良いかとも考えたけれど、子供のおもちゃにしても二酸化炭素を出さないで作ったり、運搬したりはできないはずだ。私は工場に勤めているけれど、製品の値段は工場のエネルギーや材料代で決まっているし、問屋に納めるのも運搬代が一番、高い。
電気代を節約しても二酸化炭素を減らすことはできないことがわかったので、家族で話し合ったところ、自動車をもっとガソリン消費量の少ないものに買い換えようかということになった。テレビでも「まだ車が使えるけれど、エコ替えと言っているしね」と言うことになった。
でも、実際に計画してみると、乗っているのは軽自動車だし、古い型なのであまり燃費は良くないけれど、リットル1キロぐらい良いものを買っても、月に1000キロしか乗らないからせいぜい50キロぐらいしか得にならない。つまりガソリンが2リットル節約できるだけだ。
ガソリンも高くなってきたけれど300円から400円ぐらい節約できるだけだ。買い換えするには、自動車のリサイクル料金もいるし、新しくてガソリン消費量の良い車は少し高いので120万円ぐらいかかる。そうすると元を取るのに250年?!もかかるから、こりゃ、だめだ???
おかしいな?もう一度、計算しなければならないけれど、こんなものだろう。自動車の値段も作るときのエネルギーや材料で決まっているから、こんなに差があるなら買い換えると余計に二酸化炭素をだすのじゃないか?
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この家庭は何をやればよいのかわからなくなった。今でも、生活は苦しいので、何とか給料が少し高い仕事に就きたいと思っているけれど、そんなことをすると余計に二酸化炭素を出すことになるし、かといって給料はもう少し高くしたい・・・いったい、政府はどういうことを考えているのだろう?
次に登場するのは、東京に住んでいる、キャリア官僚、年収は1600万円。
彼は国の指導的立場にあり、東京に住んで自宅を持ち、そこから電車で通勤をしている。国会が開かれている時などは毎日のようにタクシー帰りになるけれど、これは仕事だから仕方がないし、どうせタクシー代は税金だ。
でも、政府が二酸化炭素の削減を指導しているのだから、キャリア官僚としてはそれに協力しなければならない。
東京の夏は都市化の影響で、すでにここ100年で3℃もあがっているし、周りはみんなクーラーをつけていて熱風が隣から来るから冷房は止められない。それに、電気を消してもクーラーを止めてもそれだけお金が余るので、何かを買うことになるし・・・どうしたらよいだろうか?
そうだ!今は3ナンバーの大きな車に乗っているからあれを軽自動車にしよう、エコ換えだ!と思って妻に相談したら「とんでもない」と言われた。軽自動車じゃ、恥ずかしくてマンションの駐車場におけないと言う。
確かにそうかも知れないし、今の自動車を軽に帰れば少しはお金が浮くだろうけれど、それを銀行に預金すると銀行は自分が使うより効率的に使うから、余計に二酸化炭素を出すだろう。そんなことは官僚としての自分はよくわかっている。
俺もこうして時には私生活も犠牲にして仕事をしているのは、出世したいためだが、それは給料があがるからだ。給料があがっても二酸化炭素を減らすためにお金を使えないなら、努力する意味もない。
あれ?俺は国の官僚なのに、何をしたら良いのかもわからないのか?
そういえば、この前、二酸化炭素を出さないということで役所が水素自動車をリース代2000万円で買っていたな。あんなことをすれば給料を使うことができるけれど、水素は石油から作っているから、そのときに二酸化炭素が出ている。家で電気を節約するのと同じなのに、奇妙だな???
個人の給料とほぼ同じ国民のGDPと二酸化炭素の排出量のグラフがあった。日本エネルギー研究所が出しているものだ。
日本は1970年代まで高度成長が続いてエネルギーをバンバン使ってきたので、その後の10年ばかりは調整しているけれど、京都議定書の基準年になっている1990年からはGDPの伸びと二酸化炭素の伸びは完全に一致している。
これは日本エネルギー研究所のデータだから確実だろう。そうなると、GDPと給料が比例し、GDPと二酸化炭素の排出量が比例しているから、給料と二酸化炭素の排出量は比例しているはずだ。
となると、給料を減らさないとダメだ。貯金をしても貯金は誰かが使うし、消費税を上げれば、役所が使うから使い手が変わるだけでこれも同じだ。
個人をみても、日本全体を見ても、家庭で二酸化炭素を減らすことなどできないということがわかった。いったい、政府は何を言っているのだろうか?
いや、政府ばかりではない。NHKなどのメディアも節約して二酸化炭素を減らそうと呼びかけているけれど、あれはウソ??
そして、「東京に住んでいる年収1600万円の家庭」と、「地方にすんでいる400万円の家庭」で、やることは同じなのだろうか?
地方に住んでいるとあまり暑くなった感じもしないし、人が少なくて樹木に囲まれているので、なにか温暖化をしているような気がしない。確かにエネルギーは東京の人に比べて少ないかどうかはわからないけれど、温暖化は人間が使うものと自然の回復力との関係だから、地方に住めば問題はないのじゃないか?
地方に住むというのは不便を忍ぶということだ。だからみんな東京に行きたがる。俺のふるさとも多くの人が東京に出てしまった。東京の人と地方の人が同じエネルギーを使っていても、二酸化炭素を出したときの影響が違う。東京は樹木もなにもないので、そのまま温暖化するかも知れないが、地方は人が少ないから何にも起こらない。
地方は「不便」ということで十分に温暖化の防止に協力しているのだ。そんな簡単なことになぜ気がつかなかったのだろうか?
おかしいな?? 東京に住んで1600万円の人が、東京を改造して3℃あがった気温を下げようともしないし、給料も下げないのに、なんで地方にすんで400万円の俺がなにかやらなければならないのか?
ああ、そうか!これは陰謀なのだ。本当は東京に住んでいる高給取りがやらなければならないし、日本の指導層なのだから「まず隗から始めよ」だ。地方に住む俺たちには関係ないのだな。
私は提案したい。
温暖化はそれほど怖いものではないが、もし怖かったら「自分の住んでいる気温をまず平均まで持ってくる」という運動をするのだろう。東京は3℃あがっているから、まず2℃下げなければならない。
また気象庁が日本の平均気温に使っている中都市も2℃ほどあがっているので、それを1℃まで下げると、温暖化のデータ(100年で1℃あがっている)というもの自体も0.2℃まで下がる。
そうするとほとんど温暖化していないということになる。
そうか!温暖化というのは東京がやっているのだ。
(平成20年6月22日 執筆)