温暖化の報道であまりにも多く「シミュレーションすると100年後は・・」というのが出てくる。これだけ出てくるとシミュレーションの経験のない人は「本当だ」と錯覚するだろう。
私は研究の必要上、ながくコンピューターを使用したシミュレーションをやってきた。そして、「シミュレーションでは未来を予測することはできない」ということを知っている(ここでいう未来とは、1日後のような直後のことではない)。
シミュレーションを経験した科学者は例外なく、この結論に同意するだろう。その理由を明確に示したい。
シミュレーションの第一の関門は「人間の間違い」が計算に入るからだ。どんなに優れた研究チームでもシミュレーションには間違いがつきもので、しょっちゅう、研究室の中では「これ少しおかしいんじゃないか?」という会話が交わされる。
これは現在のコンピュータ言語が必ずしも人間の思考と合っていないことによっておこることである。
この第一の関門をくぐると、次に「最新の学説を正しく理解しているか」が問題になる。
シミュレーションをするときには、まずそこで使う式を確定し、定数や必要な変数を組み込む必要がある。まったく古い学問ですべてが確定している場合は別にして、最新の研究では学説が分かれたり、必ず「まだ解明されていない」というところが入る。これをどのように処理するかだ。
たとえば、温暖化では二酸化炭素の拡散速度、気流のかく乱、海水表面と熱と二酸化炭素のやりとり・・・と無数の検討項目がある。その一つでも違うと100年もの間の推定をするときに、誤差が拡大して意味のない結果がでる。
シミュレーションの恐ろしいところは「間違っていても答えが出る」ということであり、まして将来のことは「検証できない」という問題点もある。だから、温暖化では古生代からの歴史、人類の3000年間の気温などを正確に説明できることを最初に示さないと意味がない。
さらに第三の関門は、
「気象学は今後、研究テーマがないのか?」
ということにこたえる必要がある。
普通は学問は対象を完全に理解することはできない。気象学や物質循環、熱伝導などでも多数の未知の部分がある。たとえば「従来の学説とはまったく異なる新しい台風の発生メカニズムが明らかになった」などということがあるが、これは学問が進歩するということを意味している。
シミュレーションは「現在の学問で分かっているところだけを算入できる」ということであり、よほどの場合を除いて、それが100年も続くことはない。
だから、簡単にこの矛盾を表現すると、
「もし、シミュレーションで100年後の気候がわかるなら、気象研究は中止する」
ということになる。
つまり、気象研究をするのは気象にかかわる現象で未知の部分があるからであり、それが全部分かっているなら研究費はいらない。そして、もし未知の部分があるならシミュレーションの結果は間違っている。
今、温暖化で示されている結果はトリックなのである。
また、「100年後」という設定は実に奇妙である。100年後は誰も生きていない。だから100年後の状態を発表して、どんなに間違っていても問題はない。
なぜ、1年後、2年後の予測をしないのだろうか? すでに北極の氷が明確に少なくなっており、世界で異常気象が多発しているというのだから、現状を示すことができるはずである。
(世界気象機構は、異常気象の定義自体に慎重であり、かつ異常気象があるとしても気象変動(温暖化)とは直接、関係ないと発表している。)
(平成20年6月8日 執筆)