CO2を減らしたら何が起こるのだろうか?
日本では「ひとり一人ができること」と呼びかけ、CO2を減らそうとしている。でも、今から10年前、政府やNHKはどう言っていただろうか?
当時、彼らが言っていたこと・・・
「皆さん、地球温暖化を防ぐのはひとり一人の努力ではだめで、世界の国が一致団結しなければ成し遂げられません。だからこそ京都会議が大切なのです」
でも、京都議定書は失敗し、現在、世界で実質的にCO2の削減をしているのは日本だけだ。もともと京都議定書で「実質削減義務」を負ったのはアメリカ、カナダ、日本だが、アメリカとカナダが離脱しているので、今は155ヵ国のなかで日本だけがやっている。
仮に、日本人が「ひとり一人」努力して、CO2の排出量を6%減らしても、温暖化はまったく変わらない。それは10年前に政府やNHKが言っていたことと合致している。つまり「温暖化は世界中の人が一致団結しないとダメ」というものだからだ。
世界から見ると日本は奇妙な国だ。世界一の省エネルギー国、世界でたった一ヵ国だけCO2の削減をやっている。中国とインドが80%も増加させているなかで、数%を減少させても意味はなく、アメリカもEUも削減を止めている。
思い出すのは、太平洋戦争の末期のことだ。
陸軍は南方からの要請を受けて、徴兵した兵士を輸送船に乗せてフィリピンにおくる。でも、すでに制海権はアメリカの手にあり、輸送船は次々と撃沈され、すし詰めにされた兵士は銃を持ったまま沈んだ。
兵士、ひとり一人に人生があった。兵士の人生は彼を送った「偉い人」と同じ価値をもつ人生だった。
でも、軍隊もお役人も自分が命じられたことだけをした。輸送船が撃沈されるのが判っているのに、兵士を送った。陸軍の幹部の任務は「送ること」であり、「撃沈される」のは護衛する海軍の責任だからだ。
政府や軍の上層部の多くの人が、任務の重さに耐えかねて「日本が勝利するために何をするか」は考えられなかった。自分の保身だけで精一杯で、とにかく兵士を輸送船に乗せることだけだった。
幹部に厳しい見方だが、彼らは自分だけが人間だと思っていた。兵士が死ぬことと自分が死ぬことは同じではなかった。
現在の温暖化に対する政府やNHKの態度もほとんど似ている。
日本人が必死になってCO2を減らしても、温暖化が止められないことは判っている。それは十分、承知しているが、日本の偉い人は「温暖化」というあまりの大きなテーマにとまどい、それを「CO2を削減させる」ことにしてしまった。
でもCO2を減らしても何も変わらないが、それで良いのだ。戦時中、輸送船が撃沈されるのが判っていても、ただ漫然と船を出していた軍部と同じなのだ。
繰り返すが、CO2を削減するのに国民がどんなに苦労しようと、その効果がまったく無い。でも、どうして良いか判らないのだ。これまであれほど、「減らせ、減らせ」と言い続けてきたのだから、今更、自分のメンツを考えると引き返せない。
首相も弾みのついたCO2削減運動を止めるほどに意志は固くないようだ。
「温暖化を防ぐために、あなたには何ができますか?」という問いかけは欺瞞に満ちている言葉で「日本人の誠」から大きく離れる。だから、この言葉は、決して純真な子供に教えてはいけない。
かつてフィリッピン沖で無念の最後を遂げた兵士とその母のためにも。
(平成20年2月22日 執筆)