私には一つ、大きな疑問が残っています。

 

 それは日本の報道機関のほとんどが、繰り返し伝えている「温暖化で100年後に最大で6.4℃上がる」ということを、現代の日本の社会に生活する人がどの程度の重みで受け止めれば良いかという問いです。

 

 この6.4℃が本当に、真面目に出されたものであれば、次の段階として6.4℃が日本の将来にどのような影響を与えるのか、深く考えてみなければなりません。

 

 でも、もしかするとこの6.4℃は、多くの他の環境のデータのように「ある強い意図や利権のもとで作られたもの」なら、それを信じることは犯罪に加担することをも意味するので、慎重でなければなりません。

 

 信頼できる社会・・・それはすでに100年ほど前に崩壊したとも言われますが・・・なら、専門家やマスメディアの言うとおりに信じても大きな間違いをすることはないでしょう。でも、残念ながらそれは失われました。

 

 本来は、学問の専門家は学問の自由という特権を持ち、マスメディアは報道の自由を得ているのですから、それらの特権を持つことに対して「利得よりも自らの専門的信念を優先する」という魂が必要ですが、それが存在しないのです。

 

 2007年の夏、私はあるFMラジオに出演していました。そこで、温暖化のお話をしていたら、一人の男子高校生から電話がありました。

 

 「地球温暖化防止に協力しようと冷房温度を28℃にしているのですが、暑くて勉強に身が入りません。温度を25℃にしたいのですが、温暖化には影響を与えないでしょうか?」

 

 私は絶句し、その高校生が可哀想でなんと言ったらよいか判りませんでした。その理由は主に三つです。

 

 京都会議は失敗し、現在、会議に参加した155ヵ国の内、二酸化炭素の排出を減らそうと頑張っているのは、日本ただ一ヵ国で、ヨーロッパですら実質は増加です。

 

 さらに、NHKや一部のマスメディアの人は盛んに、生活を切りつめて温暖化の防止に協力しようと呼びかけていますが、彼らは一向に「自分の放送や新聞」の視聴率や売り上げを減らそうとは努力していません。

 

 つまり、アメリカやドイツの高校生は一向に冷房温度を下げるようにとは強制されていないのに、日本の高校生だけがなぜ苦労しなければならないのか?

 

 温暖化防止を呼びかけているNHKが放送時間も放送局数も減らしていないのに、なぜ、高校生だけが犠牲にならなければならないのか? また、どう見ても自動車の冷房、駅や電車の冷房など大人が決めているものはドンドン冷暖房が進んでいるのに、なぜ高校生が我慢しなければならないのか?

 

 知識人、マスメディア、大人はずるいから表と裏を使い分け、純情な高校生にその矛盾を押しつけているのではないか・・・まず、第一はそういうことでした。

 

 第二に、確かに温暖化は環境破壊のような気がしますが、私たちは本当に温暖化がどのような環境破壊をもたらすのか、電話をしてきた高校生の将来にどのような影響を与えるのか、自分の頭でよくよく考えたか、という疑問です。

 

 特に、私は大学の教授であり、環境の専門家です。私が何かを言えば、相手が「先生だから信用できる」と思っても、当然です。私たちはいつも「学生が勉強しない」などとこぼしていますが、それには「先生が正しいことを教える」という前提が必要です。

 

 もし、万が一にでも、「温暖化はそれほど大きな影響を与えない。今、彼が冷房温度を3℃下げても温暖化には変化を与えない」ということなら、「温暖化の防止の為に28℃にした方がよい」と教えるのは間違えということになります。

 

 これまで学校では「紙のリサイクルは森林を守るから、協力しなさい」と児童生徒に教えてきましたが、それは間違っていました。その責任をお役所や製紙会社に押しつけることは先生という職業には許されないことです。

 

 それと同じで、温暖化が大したことがなければ、「政府が言っているから」とか「テレビで報道しているから」ということで、高校生に教えてはいけないのは言うまでもありません。

 

 そして、最期に「社会、文化、科学」などに対する私の基本的な考えが、いかに十分に考えられ、練られていて、高校生にアドバイスできるほどであるかという点です。

 

 この第三点はその時、私に重くのしかかりました。「100年後に6.4℃」と言うけれど、それは人の受け売りではないか?私は専門家として、大学の教授として私の全知全能を絞りに絞って、考えたか? 大丈夫か?と短い時間でしたが、自問自答しました。

 

 私の心には、その時の苦しみが融けないで残っています。「100年」というこの短いシリーズは、その苦しみの一部を書くことによって少しでも前進したいと思って、執筆したものです。

 

(平成2027日執筆)