さて、分別の設計はその設計者が意識しているか否かな別にして、いくつかの分別ユニットがくみ合わさって構成されている。分別ユニットを組み上げた時の分別システム内の物質の流れを5に示した

分別システム.jpg

5 分別システムの中の流れ

 廃棄物の多くは「混合物」として出るので、それを家庭や事務所、そして自治体などで基本的な 分別を行い、さらに分別したものは工場などに送られて、さらに分別、あるいは分離をする。

 

 たとえばペットボトルを分別していくときに、ペットボトル側に注目したものが「濃縮流」であり、ペットボトルを取り去った残りの流れが「減損流」である。つまり分別する対象物に対して、よりペットボトルの濃度が高いのを濃縮、低いのを減損という呼び方をする。これは英語のenrich, depleteに対応する日本語である。

 

 分別ユニットでも同じだが、分離の専門領域以外では「減損流」の存在はえてして忘れがちである。環境分析の一つとしてLCAという方法があり、学問的には優れた方法であるが、まだ研究者の多くが「分離」というものを扱っていないこともあって、ほとんどの場合、減損流計算をしていない。

 

 これまでの物質や資源の取り扱いでは、減損流が分離や分別の負荷の大半を占めるのが普通である。ある混合物からある対象物を取り出すと、その残りのものの処理を行う。

 

特に「循環資源」というような概念では基本的には「物質は有効に回収する」ということになるので、「どの程度、価値のないものを最終的に廃棄するか」、「廃棄する場合の社会的な負荷はどの程度か」ということを計算する研究者が独自に、もしくは根拠無く決定することはできないが、現在の学問レベルではLCA計算で減損流を厳密に扱ったものは余り目にしない。

 

 ところで、ある組み合わせの分別システムを考えて、もっとも効率の良いように作るにはどうしたら良いであろうか。まず分離装置にかかる費用を少なくするためには、第一に「装置が小さい方が良い」、第二に「分離に要する電力やスチームを減らしたい」、ということである。

 一つの分別ユニットの機能を最大限に使い理想的に分離を実施できる装置を仮想的に考える。このような装置を「理想カスケード」という。カスケードという用語は物質循環でも使用されるが、「cascade=小さな滝」という意味で、次から次へと流れるようなシステムに使われる。

 

理想カスケードを理論計算する上での計算仮定は、

1.      いったん分別ユニットの中で分離したものは装置の中では混合しない。

2.      分別したものは「濃縮流」と「減損流」に分け、いらないものは外に捨てるということはせずにプロセスはクローズとする。

というものである。

 

20世紀の後半になって、工場の外に大量の廃棄物を出すということは許されなくなったので、上の2。の仮定も必要になってきたが、少し前には2.を前提にしない分離理論もあった。不思議なことで、環境を標榜し、ゴミを減らすことを目的とするリサイクルなどで、また昔のように「欲しいものを取り、残りのものは外に捨てる」という計算が行われているのは残念である。

 

  そこで、上記の2つの仮定をもとに分別ユニットを自由に組み合わせて理想的な形の装置を作ったら、どのような形になるかを理論的に求めた。2%ほどの純度の製品を99%にし、1%で廃棄する場合を6に示す。

カスケード図.jpg

6  理想的な分別システムの外見(形そのものが分別システムの外形を示していることに特に注意)

  

 6のような形間で計算したものは仮想的なものではなく、実際の分別システムを外側から見た形に描かれる。この場合、つまりゴミの中にある目的物質が2%含まれていて、最終的な回収純度を99%、廃棄濃度を1%としたときのシステムの形である。

 

もっとも効率の良いシステムの「外形」はずいぶん妙な形のものであることがわかる。図の横が分別の労力を示すことになるので、もっとも大きい分別は最初のところにあることが判る。

 

たとえば、ペットボトルの分別の時には「家庭での分別」にもっとも大きな負荷がかかる。通常は負荷に応じて「賃金」が払われるが、市中から分別回収する場合には、家庭内の分別に賃金が払われないという特殊な状態にあることもわかる。

 

このシステムの中の分別ユニットに流れる総流量(ΣL)は4で示した1つの分別ユニットに流れ込む供給流(F)と分別システムの中の分別ユニットの数(Un)の積で決まる。

 

分別システムの中を流れる総流量はその分別システム自体の大きさに比例する。総流量を上記の仮定1及び2のもとで理論計算すると、下の2番目の式が求められる。ここで、fは分別係数から1を引いた「濃縮係数(ε)」を用いて次の式で示される。

また、Valは原料、製品、廃棄物の濃度によって決まる函数で最終式が得られる。内容は複雑だが、式はかなり簡素なので簡単に計算できるところが優れていて、1950年代に主としてアメリカの研究者によって導かれたものである。

   カスケード式.jpg

分別システムの総流量を決めるこの3つの式はある意味での分別や分離の本質を表している。第一に分別システムの大きさは分別ユニットそれ自体の頭分離係数(β)のような「科学的性能(f)」の項と、どのような原料からどの程度の製品が欲しいか、といった「人間の欲望にかかる項(ΣL)」の二つにはっきりと分かれていることである。

 

20%のものが含まれる廃棄物から90%の純度の製品をとり5%は最終的にゴミとして処分する仕事を100万円で請け負っているとする。ある時に依頼主が「純度を95%にあげてくれ」と言ってきたらどの程度の値上げを要求するべきであろうか? 

 

分離装置は同じで、分離ユニットの分離係数も同一とすると式(2) で科学的性能の支配する項fは変わらないのだから、変化のあるのは「人間の欲望の項」のみである。理論計算では160万円ということになる。

 

資源回収の時に自治体が、業者に対して適切な分別回収費用を求める時にはこのような理論的な背景を持っている必要がある。特に税金を使うような場合には厳密な理論性をもって不正を防ぐことが求められる。

 

(4)で理論的に計算された仕事の量は「分離作業量;SWU; Separative Work Unit」と呼ばれるもので、同じ製品でも90%純度の1kg95%純度の1kgとでは分離作業に要する労力が異なるからである。分離作業量を決めるのは製品の純度だけではなく、廃棄物のなかの割合にも関係し、その単位はkgではなく、作業の重みをかけたkgSWUをいう単位を使う。

 

このような理論的な決め方をするとお客さんとのトラブルが減るとともに、実際の工場の運転などでは廃棄側の組成をどの程度にすれば経済的に優れているかを定量的に計算することができるので大変重宝である。

 

また、資源回収の大変さというのは分別における選択性という「作業に関係するもの」ばかりでなく、必要とする組成という「人間の欲望」が絡んでいることを認識する必要もある。特に基礎的な分離研究の場合、研究者によっては「性能が悪い」と嘆いているのを聞く。

 

よく話を聞いてみるとあまりにも純度の高いものを求めていて、分離の性能自体は十分に期待通りになっているのにVの項の問題であることに気づいていない。

 

いずれにしても、「循環型社会」というのを築こうという高邁な理想で新しい試みをするときに、社会の動きはともかくとして、学者や書籍を出すような人は、これまで学問が築いてきた知識を十分に検証しなければならない。

 

 私はいつも言うのだが、「空を飛びたい」という希望があっても、それが可能かどうかは、物理学や航空などの知識が蓄積しなければならない。「素人の感覚」も大切だが、同時に、学問を尊重しないと、時には「飛ばしてみたら墜落した」ということにもなり、無辜の人を犠牲にすることもあるからだ。

 

 その反対に学問の方もこれまでの経緯や知識にこだわらずに果敢に挑戦し、その間で議論が行われて初めて社会のお役に立つと私は思っている。

 

(平成2023日 執筆)



[i]  Cohen, K., The Theory of Isotope Separation, National Nuclear Energy Series, Div. , Vol.1B, McGraw-Hill Book Company,  New York (1951)