(この解説は一度、ネットに上げたのですが、日経エコロジーという雑誌が記事にしていただけるということでしたので、礼儀として一時、ネットから降ろしておりました。雑誌掲載の折にグラフなども入れておりますので、ご興味のある方は「日経エコロジー200711月号69-70ページ、「市民の為の環境学」」をご参照下さい。)

 

 現在の日本では一般家庭で捨てる多くのものが分別され、リサイクルに出されている。特に容器包装関係は分別したものでなければゴミを回収してくれないという事情から毎日の負担になっている。しかし、これは法律で決まっていることで、その第一条で定められているように「資源の節約」を目的の一つとして、市民が分別、自治体が収集、業者が再利用を進めるという分担が定められている。

 

 またリサイクルを開始するに当たって国民には「もったいないからリサイクルしよう。自分で出すゴミは自分で」という考え方を提示し、リサイクルを対象とする商品にはよく知られた下記のマークを付けるようにした。その後、日本人の真面目さもあって市民の分別は進み、たとえばペットボトルの回収率は平成16年度には60%程度に達したと言われている。

 

 でも、「回収」までの段階では普通の国民が説明されているリサイクルが完結したとは言えず、それが再び国民に利用され、資源として役立っていなければならない。容器包装に関するリサイクルの法律はまだそこまで整備されておらず、通称で「容器包装リサイクル法」と呼ばれるものはリサイクルの前半部分、つまり「容器包装回収法」と呼ぶべき段階にある。将来は社会システムの整備や法整備が整うと考えられるが、すでにかなり長い間、国民は協力してきたので、現時点でリサイクルがどの程度進んでいるのかを示すことが必要と考えられる。

 

 モデル的にペットボトルのリサイクルを取り上げ、それに関するデータはさまざまな新聞、雑誌などにあるが、ペットボトル推進協議会のデータを使用し、それを解釈するに当たってはできるだけ公的に示されたデータや専門誌の論文などを補助的に使用するのが適切と考えた。なお、容器包装材料のリサイクルに関する多くの団体の多くにはリサイクルの名が冠されているが、法律の内容に沿って回収までを任務とするのが普通であるので、回収率を最終的な数字にしている。

 

 2004年における使用済みPETボトルに関しては上記推進協議会が年次報告の中で図を示している。まず事業系と自治体回収独自ルートはほとんど海外に出ていて、リサイクルされていないとしている。ただ点線で示されているように一部、リサイクルに回っているものもあるとしている。しかし仮に一部が回っているとすると指定法人引取の量が増えてその後の辻褄が合わなくなるので、事業系と市町村独自ルートのものは海外に出ているとした。

 

 次に回収されないで海外に出ていると考えられる7万トンだが、平成173月に中央環境審議会廃棄物・リサイクル部会に提出された平成16年度の自治体が回収に要した経費からペットボトルでは596億円が支出されており、それを147千トンで割り返すとキログラムあたり405円になる。一方、海外にでるペットボトルはキログラム約40円で買い取られると言われているので、回収に10倍のコストを要している。従って事業系などまとまって動くルート以外の一般使用済みPETボトルで独自回収独自輸出というケースは無いいうことになる。そこでこのデータに基づき、国内消費147千トンから7万トンを差し引いて77千トンがリサイクル・ルートに乗ったと推定される。

 

 さらにリサイクル・ルートに乗ったものは推進協議会の図によるとボトルなどの成型品とシートと繊維に2:4:4の割合で使用されている。従ってこの割合に従うとそれぞれ15千トン、31千トン、31千トンになる。PETボトルの中間処理に関する経費の内訳は月刊廃棄物などの専門誌に出ており、人件費が25%、その他の設備部分が46%、委託費などが29%とされている。人件費も委託費も結局は資源と交換されるが、直接的に資源を使うものは46%だから405円のうち、直接資源関係の経費は186円になる。さらにボトルからボトルへ再生するアイエス法のNEDOへの成果報告書によると年産22000トンのプラントで製造費がキログラム190円であり、報告書には再商品化委託手数料をキログラム80円もらえればバージンPETボトル(キロ120円)と対抗できると記載されている。

 

 これらのことから、ボトルtoボトルの場合は、自治体の回収に186円分の資源を使い、さらにボトルに再生するのに80円分だけ石油から作る場合に比較して経費がかかるので資源の節約にならないので15千トンを除いた。次にシートと成型品であるが、製造費は確証が得られるデータが無かったが、回収中間処理だけで直接的な資源を186円分使用しているので、たとえ製造費がゼロとしても資源の節約にならず、結局、リサイクル量は「ゼロ」と言うことになった。

 

 しかし、一つの計算だけで結果を示すのは不十分と考え、未回収でも海外に出るものが7万トンあったとしてみた。この仮定はリサイクルシステム全体の概念とかなり違う。つまりもし市民が分別し、自治体が回収するというルートでもキログラム405円かかるのに、事業系でもないのに10分の1程度のコストで回収されているということになると、分別―回収というシステム自体が欠陥があることになるからである。しかしこれで計算し、かつ製品歩留まりをボトルtoボトルのデータを使用すると約80%であり、またPET樹脂を含むプラスチックの使用中の劣化及び不純物の除去などに関しては著者の研究室が日本では論文数や学術発表するもかなり多い方でデータもあるので、それから見ると80%以上を再利用するのは難しいと考えた。そうすると商品になりうる量は商品化しうる量は10万トンを切り、先の3つの用途には約2万トン、4万トン、4万トンとなる。しかし量が変わっても資源の節約度には影響を及ぼさないので、これでも推進協議会のデータからはリサイクル量は「ゼロ」という事になる。

 

 さらに、ペットボトルの回収に当たっては地域差があるはずで、消費量が多い大都心の近くに回収、処理、成形工場などが固まっていればそこだけは資源の節約になっているかも知れないと考え、分離工学で使用する分離作業量(separative work unit)の計算をロケーションごとにした。詳細はすでに報告しているのでここでは整理してしめす。

 

 推進協議会が示している回収率は60%であり、この回収に使用する経費が405円なので、5.7swu/円となる。ボトル製造時の原料比率47%から120*0.47=56.4円はのswu320となりその分離作業量になる限界回収率は5%となる。従って使用済み51万トンのPETボトルのうち、回収条件が良いもの5%(25千トン)はリサイクルの条件に入っている可能性がある。また市場では卵パックのようにシートとして使用されているものがあるので、約3万トンは実質的にリサイクルされているとした。

 

 このようにリサイクル量が少ない原因は使用済みペットボトルが劣化(化学的および混合による物理的劣化)していること、拡散していること、それをカバーするだけの社会システムや技術が育っていないことによると考えられる。要因はともかく毎日、分別をしている国民にとっては現実に資源の節約になって再利用されている現状を知ることは大切だろう。

 

 なお、リサイクル率を出すに当たって、上記の計算ばかりではなく、複数の事実を当たってみた。たとえば、名古屋や岐阜で実際にリサイクルされているかを調査したが、部分的ではあるが、2%程度だった。また、一般のプラスチックリサイクルを調べると、全体で2%が再利用され、そのうち、再利用の価値が認められるものは1%程度あった。これらから上記の3%はほぼ妥当な数字と考えられる。

 

 また、「いくら資源を使ってもリサイクルすればよい」というのと「資源を節約できたものだけをリサイクルと言う」という定義の問題があり、ここでは後者の定義を常に使っている。拙著「環境問題はなぜウソがまかり通るのか2」(207ページ)で、「いくら資源を使ってもリサイクルすればよい」とすれば、20%程度のリサイクル率と計算されることを示した。

(一部修正の上再録 2008年1月11日)