2007年10月31日朝、NHKは京都議定書について、次の2つの官報報道を行った。
まず、一つは
「京都議定書で各国は二酸化炭素の削減を義務づけられている。」
ということだ。
日本政府はそう言っている。それは確かである。でも、NHKが報道した「各国」というのはどの国だろうか?
京都議定書には155ヵ国が署名したが、そのうち、削減義務を負っているのは、日本、アメリカ、カナダ、ヨーロッパである。ロシアは0%だから「削減」には入らない。
削減義務を負った上図の中の国で、アメリカは批准せず、カナダは離脱しているので、現在は削減義務を負っていない。
ヨーロッパは形式的には削減をするようになっているが、それは1990年を基準にしたからであって、条約を締結した1997年からは「増枠」を獲得している。具体的にはドイツは11%の増枠、イギリスは5%の増枠である。
だから、参加した155ヵ国の中で日本だけが削減義務を負っている。政府がそれを言っているのは確かだが、NHKは事実を把握しているだろう。
放送法第3条には、放送は一方のことだけを報道してはいけないと明記されている。そして、京都議定書の削減義務を負っているのは日本だけという「事実」をNHKは知っているのだから、事実報道としても問題があるし、政府の通りに発表したことにはさらに問題だ。
政府の発表に間違いがあることを知っていながら、政府の発表だけを報道するのなら、官報や白書だけを見ていればよく、報道機関は不要である。NHKは報道機関では無いことになり、私たちは視聴料を払う義務が無くなる。
その方が良いという声も聞こえるだろう。
第二には、
「森林は二酸化炭素を吸収する」
として、その具体的な取り組みとして高知県の例を挙げていた。
まず、基本的には樹木は二酸化炭素を吸収しない。樹木の吸収した二酸化炭素は樹木の体の部分だけであり、それは樹木が枯死すると微生物が分解して土に帰るから、そこでゴワサンである。
樹木が混んで生育している森林の場合、微生物が分解しない堆積するものがあるが、それだけは二酸化炭素の吸収になるので、その差し引きの分だけを表示しなければならない。
森林保護は現在の日本でもっとも大切だが、保護するのが正しいからウソを報道して良いということはない。正しければ正々堂々と事実を報道しても納得は得られるはずである。
でも、NHKの報道によると「企業イメージをあげるために」と言っていた。このことは「本当は、企業が環境に優しいというイメージをあげて、売り上げを伸ばそうということに利用されている」と言うことになる。
NHKにしては珍しく森林にお金を投じた企業のリストを放送していたが、リストに示された企業やインタビューに応じていたセメント会社は「偽善者」ということだろうか、それとも「善人」ということだろうか?放送では取り扱いが曖昧だった。
いずれにしても、民主主義の社会にあって、報道機関の第一の役割は、とかく権力側はその権力を使ってウソを言うので、それをチェックする役割を負っている。だから「報道」なのであり、特別の自由も持っている。
その報道機関が「官報のままの報道」をするようになると、報道機関が無いより悪くなる。国民は官報なら少し疑いをもって聞くけれど、報道なら政府とは切り離された存在であることを前提にしているからだ。
そういえば、最近の防衛事務次官の問題にしても、少し前の社会保険庁の年金着服にしても、あれだけ大かがりなことが長年続いていたのに事件が別のところから明るみにでるまで報道されなかった。
これは防衛庁や社会保険庁を担当していた記者の怠慢なのだろうか、それとも取材を取り上げなかった上層部の問題なのだろうか?