人間は一人では寂しい。といって集団ではややこしい。一人では生きていくことは出来ないが。でも人が多くなると協奏しなければならない。やっかいなものだ。
でもそれは「自然の世界」でも同じである。
中心となるところがある。それが情報やモノの発信源であっても、血液の流れるもとであっても、ものごとには「元」がある。そしてそこから出来るだけ節約して、できるだけ効率的に「末端」に伝えたり、流したりしたい。
心臓からの血流なら、心臓が「元」で末梢血管が「末端」である。会社なら社長が「元」で社員が「末端」だろうし、日本では首相が「元」で庶民が「末端」である。
なにも「元」が偉く、「末端」が下等だということではない。民主主義では庶民が主人で、首相が部下だから元とか末端というのは上下関係ではなく、単なる役割分担だ。
仮に社員が91人の会社を考えてみよう。「元」が社長で、何かの情報を伝えようとしたときに、どんな方法が一番よいだろうか?
真ん中の黒い二重丸が社長で、それを中心にしてポツポツした点が社員と思ってもらいたい。まず、ワンマン社長型で「何でも直接自分で社員に伝えない」という場合、次のような情報伝達ルートになる。
これを「ジキジキ型」と呼んでみよう。つまり社員一人一人に社長がジキジキに伝える場合である。直接、語りかけるので、社長と社員の「平均距離」を計算すると3.4になり、とても短い。
つまり社長と、その横にいる重役の距離を1.0とすると、遠くにいる社員にも直接話しかけているので、平均的には隣にいる重役を基準にすると、その3.4倍しか距離がないことになる。声も小さくて良いし、電話なら電話代が助かる。
「ジキジキに伝えると真意がそのまま伝わる」と社長がニコニコするのは、この3.4を言っている。
でも、節約家の社長や、面倒を嫌う社長はいちいち社員全員に話しかけるのはいやがるだろう。社長は90回も話さなければならないし、線の距離を合計すると233にもなる。
回数も多く、長さも長いから疲れ果てる。そこで「俺が副社長に言うから、副社長から順番に伝えてくれ。それが一番、効率的だ」とついわがままになる。
そこで社長が副社長に、副社長が専務に、専務が常務にという風に伝えていって、最後に今年入社した社員に情報が行くように社内規則が変更された。
この場合は社長がどこにいても同じだから、端を社長として線を引くと上の図のようになる。社長の口から次の人の口へということだから「口コミ方式」だろう。このようにすると、確かに社長は1回しか言わなくてもよいし、全体の距離は実に90に減る。
実はこの形をさらに整理すると下の図のように渦巻きになる。隣同士で連絡してギザギザに進んでも、渦巻き状に進んでも、まったく同じである。全体の距離は90になる。
ジキジキ方式なら233が90に減ったのだから、電話代は4割と大幅に節約できる。
でも、その代わり情報が伝わるのに時間がかかることになるのは当然だ。どのぐらい時間がかかるかというと、時間の尺度になる「平均長さ」が46になるので、46を3.4で割ると、14倍もかかるという計算になる。
つまり、社長がジキジキに言うのは面倒だというので、副社長だけに伝えると14倍も長くかかる。努力と成果は常に比例しているものである。それに、副社長が表面的には社長に従順でも、実は次の座を狙っていれば大変だ。
最初に書いたように、このことは企業の中だけではなく、およそ「複数のものが関係する」という時には常に生じる問題である。情報の伝達だけではなく、たとえばヤマト運輸がものを運んだり、心臓から末梢血管に血液を送るときでもそう同じだ。
ヤマト運輸がお客さんの荷物を出来るだけ早く運ぼうとすると、荷物が持ち込まれたところから直接、お客さんに運んだ方が良いし、トラックが走る距離を節約しようとすれば順繰りに回ればよい。
この問題について自然はどのような解決策を採ったのか、それを次回に説明する。自然は常に偉く、常に美しい。
(注) 文章の中で「宅急便業者」もしくは「宅急便業者」と呼ばずに「ヤマト運輸」と書いたのは、郵政民営化が進む中、日本で巨大な郵政業とその利権に戦い、国民に大きな貢献をしたヤマト運輸という会社を私が高く評価していることによる。了解していただきたい。