さて、今回から10.7シンポジウムで出された個別の疑問の中で時間的制約でお答えできなかったことに対して、一つ一つ答えていくことにしたい。
今回は「プラスチックを燃やすのは酸化で、溶鉱炉でリサイクルする場合は還元だ。武田は焼却も溶鉱炉も同じと書いているが、そんなことも知らないのか!」というご意見について少し詳しく説明する。
プラスチックは「還元された炭素と水素」から出来ているが、炭素と水素は同じように反応するので、ここでは、炭素で代表する。
プラスチックを空気中で燃やすと、「還元された炭素」が「酸化された炭素=二酸化炭素」になる。
プラスチックを溶鉱炉に入れると、「還元された炭素」が「酸化された炭素=二酸化炭素」になる。
まったく同じである。だから、焼却と溶鉱炉の中で反応させるのとは同じとして良い。これが私が書いたことだ。
別の面から説明すると次のようになる。
つまり、酸化と還元は常に一対になっていて、鉄が還元されれば、プラスチックは酸化される。溶鉱炉では鉄は還元される。
またプラスチックを「焼却=酸化」するときに空気中の酸素を使えば「燃やす」ことになり、鉄鉱石の酸素で使えば「還元剤」という呼び名になる。
鉄鋼の生産が盛んになった19世紀のイングランドでは、建国直後のアメリカから大量の木材を輸入して製鉄を進めた。まさに「木材を燃やした」ものであり、それが「還元剤」の役割である。
この問題を最初に取り上げたのは、10.7シンポジウムに提出された非科学的疑問や事実と異なる質問の中でも、この間違いはかなり奥が深いからだ。つまり、まさにこれこそ「環境問題になぜウソがまかり通るのか」の中核を為しているウソの一つといえる。
プラスチックをリサイクルしようと言うことになってから間もなく、「プラスチックをリサイクルするのは無理だから、その多くを製鉄会社に引き取ってもらおう。その時に、溶鉱炉で燃やすことになるが、そう表現すると反発が強いだろう。だから「還元」という言葉を使おう」ということになった。
日本は「科学技術立国」というのに、環境の問題となると科学的に間違ってることを専門家や公的な機関が口にするようになり、それが現在の環境問題の歪みを生んでいるというのが私の見解だ。
この話を最初に聞いた時、相手が立派な大会社の技術幹部だったので、私は「この立派な人が、国民を誤魔化すために、こんなことまで言うのか」とビックリしたり情けなくなったりしたものだ。
「プラスチックを燃やしてもリサイクル」とするためには「国民を騙さなければならない」。だから「酸化する」を「還元する」と言い換えて「溶鉱炉に入れても二酸化炭素は出ない」と言っても国民は判らないだろうというしくみである。
このような歴然たるウソはもう絶滅したと思っていたが、10.7シンポジウムに出てきたことにはいささか驚いた。
環境問題には利権に絡んで、あまりにも露骨なウソが多いと哀しく思う。
(この文章は参加された方からの示唆があり、科学的事実に絞って解答する形にしました。)