2007910日、日本相撲協会は相撲のアナウンサーとして有名な元NHKの杉山邦博さんの取材証を没収した。

 

 この事件は実に面白い。面白いというと少し不謹慎だが、事柄が単純で奥が深いという点で面白い。

 

 杉山さんは元NHKのアナウンサーであり、相撲の中継では有名である。そして今では76才になられてアナウンサーではない。

 

 没収理由の1つは「取材証を持っているので取材できる会友であるのに、相撲評論家という肩書でテレビに出た」ということだ。そして、杉山さんは「これからは会友として出演する。今後も相撲協会の応援団の一員だ」と答えたという。

 

 この話は杉山さんが会友とか評論家とか言うことではない。もっと真剣に考え、杉山さんは相撲協会の取材証など欲しがってはいけない。この際、一人のファンとして通って欲しい。

 

 相撲の取材をする人は相撲協会の応援団でなければならないということは、裏口から聞いたことはあるが、こんなに白昼堂々と言われると鼻しらむ。

 

 スポーツだから基本的には相撲そのものを放送してくれればよく、批判やスキャンダルはあまり聞きたくない。でも、相撲は国技でもあり、公のものだ。だから「取材」については報道の自由、言論の自由の範囲内で取り扱ってもらわなければ困る。

 

 どうもNHKは政府の発表を無批判に報道したり、相撲でもあれだけ実況放送をしているのに、たびたび指摘される八百長や朝青龍の事件について相撲協会に批判的な番組をしないので不思議に思っていたが、これでナゾが解けた。

 

 報道の自由、言論の自由は批判的であることから獲得されるものだ。そして、NHKを退職した人が相撲協会の会友として記者と同じ取材証をもらうのを止めないのは報道機関として実に情けない。

 

 取材証は公的なものだ。ある意味で国民の代表として取材をして、そこで得た事実をありのまま報道するからこそ、取材証がある。国民、誰でも取材証をもらえないのだから、「取材」と言う限りは批判的でなければならない。

 

 ところが、実際は少しでも相撲協会に逆らうと取材証を取られる、少しでも政府の方針に批判的な記事を書くと記者クラブに入れてもらえない・・・この一件で、国民の方を向くことができないマスメディアを作り上げるシステムが明確に見える。

 

 だれか「日本人の誠」の心をもった方はおられないだろうか?職務に誠実であること、自らの職業に損得無く従う勇気をもったマスメディアの人も多いと思う。

 

 日本にサムライはいなくなったのだろうか?

 

 相撲は日本の国技である。「天地神明にかけて正しいことしかしていない。どなたでも自由に取材してください」という相撲協会こそ潔い日本のスポーツと言える。

 

 私は相撲ファンだ。でも、少しでも得をしよう、少しでもズルをしようというのは日本の魂にはない。