ペットボトルをリサイクルしてペットボトルになっているか?ということについて少し細かくなりますが、一応、説明をしておきたいと思います。

 

 まず「リサイクル」は環境によりよい方向だけを指すのですから制限条件があります。それを下に示しました。

 

1)     資源の節約かゴミの減量など本来のリサイクルの目的が少なくとも一部は成立していること。

2)     リサイクルに使う資源のうち、人間の力で行ったもの以外の資源は「リサイクルに使った資源」とすること。

3)     テスト的に行ったものや、特殊な条件でごく少量作ったものは除くこと。

 

 リサイクルするために膨大な資源を使えば、ある意味では何でもリサイクルできます。たとえば使い終わったペットボトルを、自治体が完全に洗浄して分別し、日本の最新工場へ送り、そこで全部を元の石油の成分に戻してもう一度、ペットボトルにすることはできます。

 

 環境を無視すれば技術的には可能です。 

 

 

 私たちの願いは、「普通の家庭で、普通に分別して出したペットボトルをリサイクルする時に使う石油の量が、新しく石油からペットボトルを作るときより、少ない石油の量であること」です。

 

 

≪方法の1≫

 ペットボトルをきれいに洗浄してまたペットボトルとして使うことはできないことが分かっています。その理由は、ビール瓶などのようにガラスでできたものは熱や薬品で洗浄することができますが、ペットボトルは熱に弱く、薬品で洗浄すると溶けたりするのでできないのです。

 

≪方法の2≫

 それでは、ペットボトルをそのままきれいに洗って細かく砕き、溶かして再び、ペットボトルにする方法もすでに「ダメ」という結論が出ています。これは農薬などが入ったペットボトルも混じるので反応したり、劣化したりするためです。行われていません。

 

 

≪方法の3≫

 そこで、ペットボトルを一度、化学物質に戻して、もう一度、作り直す方法をとることになります。

 

 方法の3では二つの方法が知られています。ほぼ類似の方法ですが、ひとつはペットボトルの原料であるポリエチレンテレフタレートを製造しているテイジンの方法、一つは国の研究資金を使って開発したアイエス法というものです。

 

 どちらの方法も優劣はつけがたく、同じような方法であり、なかなか科学的にはすぐれた方法であるとしてよいでしょう。テイジンのほうは一度、工場を作りましたが、現在は閉鎖しているのでアイエス法を検討してみたいと思います。

 

 アイエス法は製造のコストは次のようになっていると発表しています。これは事業の実施者がNEDOという公的な機関に報告した「循環型PETボトルリサイクル技術開発成果報告書」に記載されているもので公表されています。

 

 それによると、直接的な原料費と補助原料費はキログラム104円、償却費、人件費、管理費などの合計が86円で合計、キログラム190円とされています。土地代などが入っていないということでコスト計算としては少し甘いと思いますが、ここではそのままの数字を使うことにします。

 

 石油から作られるポリエチレンテレフタレートという原料はキログラム120円とされています。これも時代によって少し上下しますが、この報告書に120円とあるので、比較する場合、それで良いでしょう。

 

 そうなると新しい石油から作ると120円、リサイクルでは190円になるので、成立しません。なにが成立しないかというと、これが市場に出た場合、たとえば収益を5%として石油からのものを126円で売られるとすると、リサイクル品は19012664円の赤字がでるからです。

 

 

 これでは誰も買わないので、結果的に市場に出回りません。

 

 

 そこで「再商品化委託費」を投入することになります。この再商品化委託費というのは、自治体やボトルメーカー、飲料メーカーから徴収する「リサイクル徴収金」です。もちろん、自治体がお金を持っているわけではないし、メーカーはそのまま売値に足しますので、結果的にはすべて市民が払うことになります。

 

 

 ここで、簡単に「価格」と「資源」の関係を説明しておきます。

 

 ものを作るときの価格は「人件費」と「資源に使った費用」を足して決まります。そして資源を購入するのに使った費用は資源の量に比例します。だから、税金で払っても、どういう形でお金を使っても、資源はお金を使った分だけ使われてしまいます。

 

 

ペットボトルの分別回収で自治体などが使用している税金は平成17年度3月に中央環境審議会に提出された資料に管理費を要れて約600億円(596億円)とされています。そして回収してこの方法に提供されるペットボトル原料は145000トン(これを再商品化量という)ですので、600億円を145000トンで割りますと、キログラム413円になります。

つまり、製造費の190円と税金の413円を加えて603円になります。

 

結局、ペットボトルの原料(ポリエチレンテレフタレート)は、

1)    新しい石油から作ればキログラム120円

2)    リサイクルで作ればキログラム603円

 になることがわかります。

 つまり、新品の石油を使う場合に比べて、リサイクルでは5倍の値段がかかることを示しています。

 

 このリサイクルにかかる費用には家庭や事務所などでペットボトルを洗ったり、分別するために買うごみ袋、ペットボトルリサイクルの箱や管理するために必要なものが入っていませんので、それを加えるとさらに少し高くなります。

 ところで、ペットボトルのリサイクルの是非を考えるには、「廃棄の費用」も考えなければなりません。このことは武田邦彦著「リサイクルしてはいけない」(青春出版)に説明してありますが、ここで簡単に説明しておきます。

 

 平成177月に国が発表した資料に、プラスチックゴミ(420億トン)を捨てる経費は2620億円と報告されています。これはキログラム62円に相当します。つまり捨てるのに1キロ62円かかっているということです。

 

 そこで、ペットボトルを一回で使い捨てる場合と、リサイクルして2度使う場合を比較すると、一回の場合、120円に62円を足して182円、リサイクルして2度使った場合は、2分の1になりますから、603円に31円を足して634円になります。

 

 新品の182円とリサイクルして作った634円の比較になりますから、3.5倍になります。これが私が従来から言っている「リサイクルすれば3.5倍資源を浪費する」という数字はこの数字で、これは分離工学の理論計算(separative work unit計算)と一致します。

 

 仮にリサイクルが繰り返し永久に使えるとすると、石油からが182円、リサイクルが603円になりますので、3.3倍になります。でも私はあまりこの計算は使いません。プラスチックは劣化するので、永久に繰り返し使うことができないのと、事実、長くリサイクルをしている鉄なども半分程度を使えるのがせいぜいなので、一回で2分の1、2回リサイクルできるのが4分の1と減ってきます。

 

 残りは廃棄しなければなりませんので、「リサイクルする場合、廃棄に要する経費は2分の1」とするのが適当と考えています。

 

 まずは、ペットボトルをペットボトルに作り直す場合、資源は3倍から5倍程度使うということが明瞭にわかります。まずはここまでの原理原則を理解しておくことが大切です。

 

 容器包装リサイクル法の目的は、

 容器包装リサイクル法目的.jpg

とあり、資源を浪費する行為を「リサイクル」と呼んではいけないのです。

 

 

 リサイクルは大切ですが、資源を浪費する方法をリサイクルと言うのは、不誠実な言い方です。

 

 だから「ペットボトルをリサイクルして作ったペットボトル」というのは、リサイクルの法律と国民の希望から言って現在では「一本もない」と言うのが正しいでしょう。「何でもよいから元の形に戻せばリサイクル」と表現は、事情を知らない人にたいして誠意がない言い方と思います。

 

≪以下、中級編・・・より細かく知りたい人のために≫

 

 実は、上記の計算は素人向けと言っては失礼なのですが、リサイクルに要する資源の一部しか計算していません。リサイクルというのはかなり複雑な方法なので、さらに経費がかかり、資源を浪費するのです。

 

 その一つが、石油から作る120円とリサイクルからの603円の差額、483円もその分の資源を使いますし、それはまたゴミになります。

 

483円は120円の約4倍ですから、ペットボトルをリサイクルすると約4倍の「リサイクルのための資源」を使うことになり、資源というのは使い終わるとゴミになるので、この483円もなれのはてはゴミです。

 

 一般廃棄物のゴミ処理費用は2兆円とされ、量は5000万トンです。平均的にはキログラム当たり40円になります。先ほどの捨てる費用が62円だったのに対して、少し安いのは、かさばらないゴミが多いからです。

 

 つまり、ゴミの処理ということを考えると、ペットボトル1キログラムあたり440160円を加えなければなりません。

 

 つまり、すべてを勘案すると、

1)  新品から作る場合、120円に廃棄物処理の62円を足して182円。

2)  リサイクルの場合、190円に税金の413円、ペットボトルの廃棄物処理の31円、そしてリサイクルにかかる費用からでるゴミの160円を足して合計794円、それに家庭などの水道などをわずかですが足して約800円。

となります。

 

 つまり新品から作る場合の、4.4倍になります。

 

 さらに面倒な計算をしてみます。廃棄物関係で詳細な調査をされている方が「リサイクルにおける人件費と資源使用の割合」に相当する計算をされています。

 

 それによるとリサイクルに要する人件費は約25%です。そこでこれまで計算したコストから人件費を抜いて直接的に使用される資源だけを計算してみます。

 

 石油からポリエチレンテレフタレートを作る場合もアイエス法で作る場合も工業的な装置が主体ですから人件費は10%程度です。そこで、石油からの120円とアイエス法の190円で10%を引いて、108円と171円とします。

 

 リサイクルにかける税金、再委託料、それにごみ処理費用は75%が資源として6100.75457円であるので、これを171円に足して628円。したがって、5.8倍になります。

 

 私は産業界におりましたから、石油から作るペットボトルの原料に対してその5.8倍の資源を使用する「新しい方法(リサイクルによってペットボトルを作る方法)」を「リサイクル・ペットボトルを作る方法」とは到底、呼べないと思います。

 

 それは、「ものつくり」というのはできるだけ安い(資源を少なく使うこと。これを製造原単位という)状態で消費者に提供するのが基本的に守らなければいけない倫理だからです。これは「環境時代の倫理」ともまったく一致しています。

 

 ペットボトルのリサイクルに夢をかけている技術者もいます。その人たちは何とかリサイクルを成立させようとしています。でも、「自然」や「技術」は事実を基礎とするものですから、実態はそのまま出して、協力を求めるべきです。

 

 

 私は「ペットボトルをリサイクルすることは良くない」と言っているのではなく、「資源を浪費するリサイクルは良くない」と言っているのです。

 

 「ペットボトルをペットボトルにリサイクルすることができる」と言われますが、その前提は「リサイクルの目的に合致する場合」であることは言うまでもありません。また、現在はだめでも将来は改善されると期待している場合は、「どうしたらできるか」というその人の「狙い」を示して協力を求めるべきでしょう。

 

 自分で商売をする場合には、最終的な結果が評価になりますが、自分の仕事に国民に税金や労働などの協力を求める場合、国民も参加する人の一人、株主や社員の一人と思って、「現在のペットボトルのリサイクルでは資源を浪費している」という情報を流さなければならないでしょう。

 

おわり