環境問題のウソやナゾの中で、際だっているものの一つが「リサイクル率」という数字だ。国民にこれだけ強制し、さまざまなお金を出させ、そして小学校でもリサイクルを教えているのに、どこにも「リサイクル率」という数字が無いことだ。

 

 リサイクルをするのだから、どのぐらいリサイクルされたかという数値は非常に重要なのは言うまでもない。打率が公表されないプロ野球、スコアーが明示されないプロゴルフのようなもので、それでも「あの選手は素晴らしい」などといってもダメだ。

 

 でも、多くの日本人はリサイクル率は発表されていると思っている。政府の公的なものには、容器包装リサイクルで70%、ペットボトルで84%と言っているからである。でも、実は「主語」がない。

 

 つまりこの70%とか84%という数字は何であるのか非常に手が込んだ説明をする。たとえば「リサイクルが進んでいますか?」と聞くと、「容器包装リサイクル法で定められている再商品化率は70%です。」と答える。

 

 政府を信じている人は、この答えを聞いてリサイクル率が70%だと思う。当然のことである。普通ならここで終わるが、さらにその人が「この数値はリサイクル率ですか?」と聞くと、YES, NOは言わずに「再商品化率です」と答える。日本は民主主義ではないから、国民が聞いたこと、知りたいことを答える必要はないと考えているのだろう。

 

 民主主義なら「リサイクル率はわかりません」と答えるはずであるし、そう答えても何にも困らない。でも決してそうは言わない。

 

 そこで、政府やリサイクル協会が発表している数値をわかりやすく説明しておきたい。非常に重要だからである。

 

 プラスチック容器包装の場合、平成16年度から平成17年度には、廃棄された総量が約400万トン、回収された量が8分の150万トン、業者間取引量が36万トン、そしてプラスチック製品として使われた量が6万トン、そのうち、杭などどうしようもない用途を除くと約4万トンだった。

 

 この数値は誰もが一致している。「万トン」ではわかりにくいのでペットボトルの本数で示してみる。

 

【容器包装プラスチックの場合】

 ペットボトル100本が捨てられ、そのうち13本が回収され、9本がリサイクル業者間で取引され、15本がプラスチック製品となり、そのうちまあまあの品質で再利用されたのはたった1本!である。

 

 100本捨てて1本使えたのだから、リサイクル率は1%か無理をしても15%だ。でも、低品位の用途に使用するということはそれまでリサイクルにかけた資源を考えればむしろマイナスしなければならないぐらいだから、やはり1%が妥当だろう。

 

 政府やリサイクル協会は違う。これを約70%と発表している。12本が回収され、9本がリサイクル業者間で取引されたので、9÷13=0.7というわけだ???

 

 真のリサイクル率が1%なのに実に70%にするトリックは、

1)    焼却してもリサイクル

2)    回収した量を廃棄した量とする、

3)    業者間で取引した量を再利用量とする、

3本立てである。

 

 これはリサイクル率ではない。従って、プラスチック容器包装リサイクル率はまだ公表されていない。どんなに頑張って(頑張る必要もないが)、焼却もリサイクル、「再商品化」を「再利用」としてもリサイクル率は9%だ。70%とはほど遠い。

 

 ではペットボトルはどうか? 約50万トンが廃棄され、17万トンが回収され、15万トンが業者間で取引された。その後は不明だが、私の研究室が調べると日本で再利用された量は3万トン程度である。この根拠は適当な機会に示すつもりである。

 

【ペットボトルの場合】

 これをペットボトルで言うと、100本が捨てられ、34本が回収され、30本が業者間で取引され、6本が再利用された。もちろんペットボトルとしてではないが。だからリサイクル率は6%である。

 

 ところが政府と業界は「ペットボトルのリサイクル率は約84%」と公表している。というとまた変な反論がくる。「リサイクル率とは言っていない。再商品化率と言っている」と言う。でも国民が聞いているのはリサイクル率だ。そしてリサイクル率を求められると、再商品化率をリサイクル率の代打で出してくる。

 

 もし「再商品化」を全量「再利用」としても、15/50=30だから30%であり、全量が再利用されることはないので、80%が利用されたとしても24%だ。政府発表の84%とはずいぶん違う。

 

【粉飾決算】

 現代は粉飾や誇大広告が許されない時代だ。1%から9%しかリサイクルしていないのに70%と言い、6%から24%しかリサイクルしていないのに84%というのは、私には詐欺に見える。それも数字を出しているのは公的機関である。

 

ミッドウェー海戦の大本営発表を思い出す。でもあの時は戦時だし、戦っている相手もいる。でも今はウソをつく必要はない。いったい、誰が「敵」なのだろうか?

 

 日本にはリサイクル率の数字が一つもない。

 

かつて「税金は納めても、なにに使用されているかは関心がない国民」と言われたが、リサイクルでもまた同じことが行われている。リサイクル率は発表されない、何に使われているのかもはっきりしないけれど、毎日セッセと分別はしてくれる。

 

なかなか良い性質を持った国民だが、それにしては政府や公的機関が悪のりしている。

 

 国民をごまかす言葉はいくらでも作ることができる。再商品化率、適合製品などきりがない。用語は多くあるが、「どれだけが捨てられたの?」「どれだけが再利用されたの?」という単純な質問には答えない。だから、回りくどい言い方をする。

 

 リサイクル率を出さない目的はなんなのだろうか?政府やリサイクル機関は正しいリサイクル率を知りたいはずだ。環境に関心のある人も知りたいと思うだろう。プラスチック容器包装リサイクル率が1%と70%では、これからどうするかを考える時に大きく違うからである。

 

 特にリサイクルによって資源の節約をしたいと希望している人にとってはとても大切な数字と思う。私はリサイクルは資源の節約にならないと思うが、それでも「事実」は知りたい。長くプラスチック材料の研究をしてきた者として自分の考えがどうあれ、本当にプラスチック製品のリサイクルが資源節約の手段として有効なら検討を加え、式を修正しなければならないからである。

 

 ところで、「リサイクルは資源の節約になるのが大前提だ」というのは、リサイクルを推進している人も同意する。これに反対する人に今までお会いしたり、論文を読んだことはない。だから、リサイクルが資源の節約になっているかということもリサイクル率と共に関心が強い問題である。

 

 もう、実績が出ているが発表はなく、まだLCAなどの計算値しかない。人件費は議論があるが、それ以外のものは資源を使っている。だから実績から人件費を除けば、議論のない数値で「リサイクルが資源を節約できているか」もわかる。

 

 

 私は悲しくなる。日本人はこんな民族ではなかった。少しのズルはしたかも知れない。何万人に一人はコソ泥もいただろう。でも、大人が全員かかって子供にウソをつき続けるということはあっただろうか?

 

 「焼却してもリサイクル」などと用語を複雑にすることもできるだろう。でもそれが小学校では「ものを大切にしましょう」という行為として教えられているのだ。子供の心をもてあそんでいる。ペットボトルのリサイクルを推進したのはペットボトルメーカー、リサイクルに反対したのが環境運動家であったことをもう一度、思い返したい。

 

 政府や公的機関でリサイクルを推進している方々、是非、正直になって欲しい。日本人としての誇りを持って欲しい。あなた方も若い頃、理想に燃えて仕事についたと思う。

 

子供たちを騙さないで欲しい。異なる考えもあるだろうが、少なくとも事実や数字はそのまま出して欲しい。そして小学校の先生方、是非、事実がわからず数字もないのに子供に教えないで欲しい。子供は次世代の日本を担うのだから。

 

 是非、お願いしたい。

 

つづく