海は上がってきたか?
環境省が15年の長きにわたって「北極や南極の氷が溶けて海水面が上がる」とウソを言い続けて来たにはそれなりに理由があると思う。それは新聞やテレビも同じことで、人間は理由がなくウソを言い続けることはないと思われるからだ。
ところで、「北極の氷のウソ」のように明々白々なものはわかりやすいが、「海面が上がってきている」というような複雑なことになるとそれほど単純ではない。現在でも「ツバルが沈む」という恐怖番組が毎日のように報道されている。
本当に海水面は上がっているのだろうか?まずは気象庁の「日本の水位」を見てみることにする。
上のグラフは平成16年2月27日に報道発表資料として気象庁が出したものだ。気象庁という役所は「気象を改善しよう」などということとは少し離れて「気象とはどういうものか?」ということが中心的な仕事だったので、ごく最近までは信頼できた。だから、おそらくこのデータも信頼できると思う。
グラフを見慣れない人もおられると思うので、少しゆっくりと説明する。
まず「最近の20年間(1985年から2005年まで)」だけを取り上げると、海水面はマイナス2センチからプラス4センチに6センチ上がっている。
次に「1950年から1970年の20年間」を取ると、プラス4センチからマイナス2センチまで6センチも下がっている。つまり、この期間を取ると「海水面は下がっている」ということになる。
さらに「この100年で現在の水位が一番高いか?」ということで見てみると、1950年と現在が高い。1950年というと戦争が終わった直後だ。あの時はそれほど大量生産、大量消費ではなかった。それでも海水面は最高値だったということになる。
ここまでのデータで考えてみると、最初から「最近は地球温暖化で北極の氷が溶けるから海水面が上がってきた」というように先入観を持っていると1985年からの20年間に6センチ海面が上がったことに注目するだろう。逆に、「大量生産と海水面は関係がない」と思っていると、1950年のデータが納得いく。でもデータはそのように最初からなにか先入観があって見るものではない。データを見るときには心は清らかでなければならない。
知りたくなるのは1950年はツバルは沈んだのか?ということだ。
ツバルは1568年にスペインのネイラがヨーロッパ人として始めて略奪を目的できたが、その後、1892年からイギリスが占領していた。1974年、人種の違う島が分かれてポリネシア人の多い島をツバルと呼び、1978年に独立した。
ツバルについてこの程度の歴史はわかるが、1950年にツバルが沈みそうだったかは記録が見つからない。それに「日本の水位とツバルの水位」も不明である。海水の水位というのは場所によって違う。ツバルの報道を見ていると地球上どこでも水位は同じとマスメディアが思っているように感じてしまうが、水位の変化は場所によって大きく違う。
だから、本当は日本の水位とツバルの水位を比べてもあまり意味がない。ということはツバルという特定の場所の水位が上がることと地球の温暖化と関係づけるのは科学的には正しくないことを意味している。
「事実と違うことを言っても、目的が正しければ許される」という原則を掲げるマスメディアなら良いかも知れないが、「目的が正しくても、事実と異なることは言えない」という学者としては、ツバルと地球温暖化を関係させることはできない。
実は、現代の日本における「ツバル」の問題は地球温暖化の問題ではなく、「地球温暖化を防ぐのは大切だから、少しぐらいウソでも許される」という問題なのである。
私は「地球温暖化を防ぐべきだ」と言う考えだが、「だから、ウソを言ってよい」とは考えない。別にウソをつかなくても地球温暖化が危険であることを認識することはできると思うからだ。
おそらく、お役所やマスメディアは「国民はバカだから、簡単なことで脅さなければわからない」と思っているのだろう。それにはツバルは格好の例なのである。
現在の私たちは自然が生み出すエネルギーの1000倍ものエネルギーを使う生活をしている。それが地球の気象に異常をもたらすことは当たり前のことで、その事実を知るために国民にいい加減なことを言わなければならないなどと、私は思えない。
私は次のように思う。
1) ツバルは沈みそうである。
2) それは地球温暖化と関係があるかは不明である。
3) ツバルがどうであれ、人間が地球の気象を変えるようなことは望ましくない。
4) 人間が地球の気象を変えようがどうであれ、もともと自然の1000倍の生活をしていれば現在の文明は破滅するだろう。
問題は、ツバルでもなく、地球温暖化でもなく、4)であると考えている。
おわり