環境ロマンスカー8号車




 37億年前に生命が地上に誕生し、そして7億年前に多細胞生物が出現した。30億年もの長い時間、この地表に生物は繁殖していたがどの生物も顕微鏡でしか見えないぐらいの「単細胞」だった。

 そんな単細胞の生物が30億年に成し遂げたもの・・・その結果を今の地上に見ることができる。

 青く美しい海・・・これが彼らのの第一の作品である。

 この宇宙には鉄(Fe)が多い。それは水素から始まりウランに終わる92ヶの元素のうち、鉄がもっとも安定な元素だからだ。

 鉄の姿・形は3つある。スチールなどの材料になっている「還元された鉄」、酸化鉄や硫化鉄などの「酸化されて化合物になっている鉄」、そして「イオンとして水に溶けている鉄」だ。

 そして、地球の中心には鉄が詰まっていると言われる。地表近くには酸化鉄や硫化鉄の鉱脈が続く。太古の海には鉄のイオンが溶けていた。それもおそらくは緑色に鈍く色づいた二価の鉄イオンが濃厚に溶け込んでいたと考えられている。

 鈍い、汚らしい海だった。当時、まだ成層圏にオゾン層ができていなかったので、地表に出ることはできなかった単細胞生物がひっそりと暮らし、毎日、光合成を行って酸素を放出していたのである。

 放出された酸素は泡状になって海中から海面へと上昇し、その一部は海にとけている鉄と反応し、一部は海面から空気中へと出ていった。

 鉄と反応した酸素は、淡緑色の二価の鉄イオンを赤茶けた三価の鉄に変えた。「鉄さび」の色である。海は次第に鉄さびの色で赤く濁ってきたことだろう。

 幸いなことに二価の鉄は水に溶けやすいが、三価の鉄は沈殿する。海流に流された鉄の粒が少しずつ澱みに溜まり、そこに砂が沈着する。鉄―砂―鉄―砂―・・・と続き、縞状の堆積物ができた。

 それが今、人間が使っている「縞状鉄鉱床」である。おおよそ鉄資源の70%を占め、1000年は人類に貢献すると言われている。数10億年前の生物の息吹を今、感じることができる。赤い帯は三価の鉄、そして生物の活動が衰える冬場には砂がたまる。写真を見ると情景が目に浮かぶようだ。

縞状鉄鉱床オーストラリアハマズリー産DSCN1421.jpg

 三価の鉄が沈殿し、海は青く澄んで来た。青い海、白い雲・・・

「地球は青かった!」

とは人類初の宇宙船に乗ったガガーリンのメッセージである。

 人間が自然が美しいと思うのはなぜだろうか? 人工的なものはどんなに素晴らしいデザインでも何となく美しくはないが、自然は素晴らしい!でも、私たちが見ている自然とは実は「先代の生物の廃棄物」なのである。

 酸素は生物がはき出した廃棄物。青い海も生物の廃棄物。あの素晴らし珊瑚礁はサンゴの死骸である。ある生物が死に絶え、次の時代に繁栄する生物は前の生物の廃棄物で生き、廃棄物が美しく見える。

 廃棄物貯蔵所が一杯になるという。でも、ゴミの始末をしようとした生物は人間が最初である。人間が登場するまでの地球で「廃棄物貯蔵所」なるものを作った生物はいない。みんな「使い捨て、その場に捨てて」来た。

 でもそれが青い海を生み、珊瑚礁を作り、そして成層圏にはオゾン層を形成して、この生命の満ちあふれた地球を作り出したのである。もし、先代の生物が廃棄物処理などをしていたらこの美しい地球は存在しないだろう。

 ガガーリンが「地球は青かった!」という感激的なメッセージを送ったのを、冷静に翻訳すると、

「ああ、地球は廃棄物貯蔵所だ!」

ということなのである。

 夢がない? いや、自然とはそう言うものだ。人間の小さなセンチメンタリズムなどを遙かに超えているのが自然だ。だから美しい自然が廃棄物貯蔵所であろうが、なかろうが、そんなことは人間の尺度に過ぎない。自然はそれを超えている。

 人間を遙かに超えている自然、それをそのまま受け入れるのが生物の本性である。絶滅する生もあれば、誕生する種もある。絶滅は悲しいが誕生はおめでたい。死がなければ誕生はない。

つづく