― 1+1は3 ―

 小学校の時に1+1=2と習う。それ以来、足し算というものに疑いを持ったことはない。数学的にはいろいろ研究するところもあるらしいが、普段の生活で使っている分には厳密に正しいと思っている。

 でも、この関係は算数や数学の時にしか「常に正しい」とは限らない。特に、算数や数学の学者になるのではなく、足し算やかけ算を実際の生活や研究に利用する人にとっては常に正しいとは限らない。

 たとえば、ここにAとBという2つの数字があったとしよう。そして、A=1.44, B=1.43とする。普段の生活でもそんなことはある。AとBを足すと、
A+B=1.44+1.43=2.87
となる。

 何かの必要があって、四捨五入することになった。A=1, B=1とする。これは間違っていない。そこで、四捨五入してから足し算をする。
A+B=2
となる。もともと、四捨五入しない時には、足し算をした答えは3に近いが、四捨五入してから足すと2となる。四捨五入のタイミングが違うだけだ。

 それなら四捨五入などしなくても良いじゃないかということになるが、この世のものはほとんど四捨五入されている。例えば、天気予報の降水確率がそうだ。明日の降水確率が30%といっても、それは30.000%であるということではない。だいたい、30%という意味だ。

 つまり、降水確率が25%から34%の範囲の場合、表示がわかりにくくなることと、細かい数字は必要がないから30%としているだけである。世の中はそんな例ばかりである。

 A=2.51とB=2.55の時、四捨五入してからかけ算をするのと、計算してから四捨五入するのとではどの程度違うのだろうか?
四捨五入してからかけ算をした場合                     3×3=9
四捨五入しないでかけ算をして、後で四捨五入した場合     2.51×2.55=6.4005=6

 ずいぶん、違うものである。9と6も違うのだから、四捨五入するタイミングが大切である。物理学や工学を少しやった人は「有効数字」「有効桁」というのを習う。たとえば観測できる精度が2桁なら、A=4.351という数字が得られても、2桁しか信用できないから、3桁目を四捨五入してA=4.4としないと怒られる。

 確かに、4.3の次の数値は信用できないのだから、4.4は正しい。でもそれは最終的な表示をする時であって、計算途中は有効桁数より少し大きな桁を取っておかないと計算を間違うことになる。でも、さらにやっかいなことがある。一応、表にして示さなければならないが、さらに計算も必要という時だ。その時はどうしたら良いだろうか?

 先ほどの例で、A=2.51, B=2.55の時、有効桁が1桁なら2桁までとるとしよう。つまりA=2.5, B=2.6とするのである。その場合、
2.5×2.6=6.5
となって、もし有効桁がそれ以上ある時に比較して0.1だけ大きい。0.1も大きいと思うが、仕方がない。もともと有効桁は1桁しかないのだから、2.5とか2.6というのも怪しいのである。

 少し複雑になったが、高等学校から大学へ進む人は、次のように考えたらよい。
1) どこまでが信用できるか、どこまで必要なのかをいつもしっかり考えておく。
2) 計算途中は、桁はできるだけ落とさない。
3) 計算途中で、表示する時には有効桁より一つ多く表示する。
4) 最終的な結果は必ず有効桁だけ示す。

 脱線を一つ。

 先日、ある裁判の鑑定をした。その道路の制限速度は時速60キロメートルだった。ある別の鑑定人が計算して、
「車両は衝突前に時速59.99キロメートルであったと推定される。」
としてあった。その計算の中には摩擦係数が使用されており、それは0.6となっていて、その値の変化は0.5から0.7程度とあった。

 まったく、ナンセンスな結論である。摩擦係数が一桁も怪しいのだから、どんなに頑張っても推定時速は60キロメートルと表示するべきである。その鑑定人は心の中にある目的があって、数字の印象を変えたかったのだろう。そういうことが嵩じると「姉歯さん」になる。

おわり