―ストレスと脳卒中―

 ストレスが大きいと病気になりやすいということは最近では常識になりつつあります。食べるものが不足していて、栄養失調で死ぬような時には「ストレス」など感じている余裕もないのですが、生物は良くできていて、栄養が行き渡り、暇ができると今度はストレスが強敵になります。

 上のグラフはストレスの程度と冠状動脈疾患死亡率の関係を整理したものです。ストレスが少ない人を基準にとって、中程度のストレスの人、高いストレスを受けている人が冠状動脈疾患によって死亡する比率を比較したものです。

 黒の線は男性の場合ですがストレスによらず、一定の値を示していますので、男性はストレスに対する影響が弱いのか、それとも男性は全員がストレスを受けているということになります。一方、女性はストレスに対して敏感で、ストレスの低い生活をしている女性に対して、中程度のストレスの場合は死亡率が実に1.3倍、高いストレスでは1.9倍ですから、ほぼ倍になると言っても良いでしょう。

 「冠状動脈疾患」というと難しいのですが、食生活が欧米化したり、高年齢の人が増えて心臓の血管が狭くなったり、酷い時にはふさがったりして起こる病気で、たとえば狭心症、心筋梗塞などがそれに当たります。

 でも男性に比べて女性はなぜストレスにこれほど敏感なのでしょうか?

 この調査はある地域の男性と女性に対してアンケートをして、それと疾患の関係を調べた物で、ストレスが強いか弱いかは本人の「申告」によっています。おおよそ調査の常識では「女性はおおむねそのまま答えるが、男性は表面を繕う」と普段の逆の態度が見られることが知られています。

 だからこの場合、男性ではストレスの大きい人は、そう言うのが悔しいのでストレスが小さいとアンケートに書き、ストレスの小さい人は、ストレスが少ないのも格好が悪いからと、こっちはストレスが大きいように答えると注意書きが書かれています。

 ともかく、健康の維持には日頃、ストレスがたまらないようにするのが一番です。おそらく最近のテレビなら
「女性の皆さん、ストレスに気をつけましょう!!」
と呼びかけるでしょう。でも、ちょっと、おかしいこともあります。

 アンケートをすると言ってもその地域の全体にしている訳ではなく、患者さんだけにアンケートを出せば結果はかなり偏ります。また健康な人も含めて全員がアンケートの対象者だとすると、健康な人が調査をしている間に冠状動脈疾患になる人は珍しいですから該当者の数が少なくなって調査の信頼性が失われます。

 また男性はアンケートに素直に答えないというのもこの場合、怪しいものです。つまりこの調査の結果は全体としては納得性があるものの、本当にしっかりした調査をしたのかが心配になります。

 データやグラフというのはどう思いながら見るものでしょうか?
「このデータはおかしいよ!」
と怒る人がいます。確かにそれまで考えてきたことと違う結果が出ると誰もが自分を否定されたようで面白くありません。だから「おかしい?」ということになるのですが、データは事実を示したものですから、「おかしいよ」という表現自体がおかしいのです。

 もともとデータというものは、自分が考えていることが間違っているかどうかを調べるようなもので、「おかしい」と感じられるデータが自分の考えの間違いを直してくれる良いデータであることは確かです。

でも人間はそのようには頭が働かないので、冠状動脈疾患とストレスとの関係のグラフを見る時、それまで「ストレスは健康に悪い」と思っている人はストレスとの関係が認められると内心、喜んで結果を受け入れます。

 私たちはすでにストレスが健康に悪いということを知っています。その意味ではこのグラフはすでにわかっていることを示しているに過ぎないとも言えます。逆にこのグラフが「ストレスが大きいほど健康」という結果なら誰も腹が立つので、使わなくなるかも知れません。そうすると新しい知見が埋もれてしまいます。

 このような人間心理をついて悪巧みをする人もいます。人間がそう思いたいこと、すでに知っていること、先入観などを巧みについて、データを示し巧みに自分の思う壺に引きずり込むやり方です。昔はいかさま師の常套手段でしたが、最近では大新聞もこの手を使うことがあります。

 おわり