アメリカが京都議定書に入らない理由

 日本のマスコミはアメリカが京都議定書に入らない理由を丁寧に説明していませんので、ここで説明することにしました。

 説明を始めるに当たって、一つだけ前提をおきます。それは「京都議定書は二酸化炭素の削減量を減らして地球の温暖化を防止することを目的としている」とすることです。そんなこと当たり前じゃないかと思われる人も多いと思いますが、専門家の間で議論するときには、京都議定書は「政治的なもので、なにも地球温暖化など考えていない」という人や「京都議定書は環境を表面にだして世界の経済発展をスムースにするためだ」という人が多いからです。

 この説明では、京都議定書は「地球温暖化を目的とする」と単純に仮定します。

 京都議定書は1990年を基準として、その年に先進国が出していた二酸化炭素の量を、国別に削減量を決めてそれを2010年までに守ろうというものです。たとえば、日本では1990年から2010年にかけて二酸化炭素を6%ほど削減することが明記されています。

 京都議定書に関する国際的な状況を正しく理解するために、簡単に地球温暖化と二酸化炭素の排出について説明をしておきます。

 まず、地球温暖化が二酸化炭素の影響なのか、それとも太陽活動なのかははっきりしていません。もともとこれまででも地球の温度は周期的に変化していますが、それは太陽の活動と地軸の変化、太陽の周りを回る地球の軌道などの天文学的な違いで説明されていました。しかし、20世紀になって人間活動が盛んになり、二酸化炭素やメタンなどの気体の濃度があがり、地球の気温にも多少、人間がだすこのような「温暖化ガス」の影響があると言われています。

 次に、なぜ人間活動で二酸化炭素がでるかというと、石油、石炭、天然ガスのような「エネルギー源」を使うからです。このようなエネルギー源は数億年前の太陽エネルギーが生物の体に蓄積し、それが地球に埋まったもので、ある言い方では「生物の死骸」、別の表現では「地下に埋まった遺産」と言うことができるでしょう。

 その昔、生物が太陽エネルギーを吸収して、空気中の二酸化炭素を炭素の化合物にして蓄積したものですから、それを燃やすとエネルギーがでて、炭素の化合物は二酸化炭素になります。だから石油や石炭、天然ガスを使う限りは人間活動で二酸化炭素がでるのです。

 このように、(エネルギー)=(二酸化炭素)ですし、(人間の活動量)=(エネルギー量)ですから、二酸化炭素を減らそうとすると、人間の活動量を減らさなければならないということになります。

 つまり簡単に言うと、日本が6%の二酸化炭素の排出を減らそうとすると、活動を6%減らそうと言うことになります。また地球の気温は先進国がだす二酸化炭素ばかりではなく、中国などの発展途上国の出す二酸化炭素も同じように温暖化の原因となります。発展途上国は一人あたりの所得が低いので、二酸化炭素の排出量も少ないのですが、人数が世界の80%にもなりますから、かなりの二酸化炭素を出すことになります。

 日本は経済が不況になるのはイヤなので、経済活動はそのままにして「排出権取引」というのを考えました。これは日本がだす二酸化炭素は減らさないが、二酸化炭素を出す場合にはどこかの国で「二酸化炭素を出す権利を持っている」という人を捜して、その人から「二酸化炭素を出す権利」をお金で買うという仕組みです。世界には二酸化炭素を出す権利だけは持っているけれど、それほど石油を燃やしていないので、その権利を使わないという人がいるので、その人から買うのです。

 このような地球温暖化の原理と京都議定書の仕組みを理解した上で、アメリカの反対の理由をともかく納得してみたいと思います。日本人は先に結論があって、人の考えを聞かないというところがありますが、人の考えにいったん納得しても、それを自分のものにするかは別ですから、まずはアメリカ人になったつもりで相互理解を深めたいと思います。

 アメリカは次の理由を挙げています。
1) 京都議定書は先進国だけに義務を負わせているが、地球温暖化は開発途上国からの二酸化炭素も大きな影響があるので、実効性に乏しい。
2) 排出権取引など実質的に二酸化炭素を減らさなくても目的を達成することができるので、「骨抜き規制」になっている。
3) (後に説明しますが)ロシアやイギリスが賛成するような条約を結ぶタイミングではない。

1) と2)はすでに説明しましたので、3)について少し解説を加えます。

先日、ロシアのプーチン大統領が京都議定書を署名しました。その理由は、
1) ロシアは1990年から経済が停滞し、議定書に署名しても経済活動に影響はない。
2) アメリカや日本など国際的に対抗しなければならない国は経済が順調に発展していて、それらの国の力を制限しなければならない。
3) もともと二酸化炭素の地球温暖化問題はロシアにとって環境破壊にはならない。
4) もともと京都議定書は二酸化炭素の削減に効果がない
ということです。

 これにイギリスが同調しています。その理由は、
1) ロシアほど、京都議定書と地球温暖化の関係がないとも言えない。
2) イギリスも経済が停滞して二酸化炭素の制限は経済発展とはあまり関係がない。
3) アメリカを牽制する必要がある。
ということです。

 一方、日本人でありながら、日本政府の意図が理解できないのですが、まさか地球環境の改善などのように国連がやるような仕事を日本政府がやる積もりは無いと思っているでしょうから、
1) 京都という場所で橋本総理大臣が大見得を切ってしまったので、その後始末をしている
2) 京都議定書をテコにして国際的な地位を高めようとしている
などが考えられますが、国の要人と会うことがある私の立場でも良く理解ができないので一般の人にはとても理解できないことと思います。

 このように国際的には、「京都議定書と地球温暖化とは直接関係がない」と認識されていて、アメリカが京都議定書に加わらない理由がここにあります。

 もう一つの理由は石油が枯渇することです。最初に整理をしたように、二酸化炭素は石油、石炭、天然ガスからでます。もし石油が無くなると、石炭などに変わりますが、その使用量が格段に減少することが予想されています。従って、石油が枯渇すると二酸化炭素問題、つまり地球温暖化問題は自然消滅するという理屈になります。

 アメリカがイラクを攻撃して北朝鮮を攻撃しないのは石油の枯渇と関係があると多くの指揮者が指摘していますが、私もそう思います。石油価格は一時、50ドルを超えて、また少し下がってきましたが、長期的には石油の枯渇は時間の問題です。

 世界的な石油生産のピークは2006年と言われていますが、2030年頃から石油の消費量が減少すると「二酸化炭素を出す原因が取り除かれる」ということになり、二酸化炭素問題は自然消滅します。もし現在を「石油枯渇の前哨戦時代」と認識すれば、その時代に二酸化炭素を削減するために経済活動を犠牲にしても意味がないということになります。

 これでアメリカが京都議定書にくわわらない理由が少し理解できたと思います。


終わり