目指してはならないもの “環境”

 環境問題を簡単に言うと「人間のやり過ぎ問題」である。

 人間が火を使うようになってから、縦穴式住居で魚に塩をかけて火にくべ、焼き魚を食べた。その時、大量のダイオキシンが発生したが、それを克服して、現在の人間にとってダイオキシンは毒物ではない。別の言葉で言えば「ダイオキシンに強い人間だけ残った」とも言える。

 ローマ時代になると貴族が鉛の容器にワインを入れ、その甘い味を楽しんだ。鉛も水道管に使われているぐらいだから、大量でなければそれほど危なくはないが、さすがにワインの中に鉛を溶かして飲めば病気になる。それはローマが滅びた原因の一つにされているほどである。
 
 このように「環境問題」は20世紀に初めて発生したことではなく、人間の誕生とともにあったと言えるが、今の世の中で「環境問題」と言われているのは、地球温暖化やゴミ問題など個人的、部分的ではなく、社会全体、地表全体に影響があるようなものを指している。

 なぜ、こんな事が起こったかというと先進国の人間が「豊かな生活」をするからである。たとえば、家庭で使う水の量は「水洗トイレ、洗濯機、風呂、(台所と飲み水)」の4つが4分の1ずつである。飲み水だけだと、実に100分の1に過ぎない。

 昔は、水洗トイレ、洗濯機は無く、シャワーなども無かった。現在は「豊かな生活」をするために膨大な水を使う。もちろん、水だけではなく、石油、鉄鉱石、銅、コンクリートなども膨大である。膨大に使えばその影響がどこかに及ぶ。

 使う量は「お金」で決まる。1ヶ月100万円使う人は、50万円使う人の2倍の量を使う。使い方には因らない。1万円でポリ袋を山のように買っても、携帯電話でも、コンサートに行っても同じである。携帯電話はポリ袋より格段に小さいが、なぜ小さくても1万円もするかというと、携帯電話を作る時に多くの物質を使うからである。

 コンサートで1万円、使っても同じである。その1万円はホールを造る建設費、冷房や照明の電気代、音楽家の謝礼などに使われる。謝礼で音楽家がまたものを買う。だから、「お金を使う量だけ環境を破壊する」と言える。非常に正確な表現である。
 
 ある時、「環境に熱心」というのが売り物のテレビ・キャスターが「人をナイフで刺すのも、環境を大切にしないのも、人を傷つける事では同じ」と言っていたが、そのキャスターは高給取りで有名である。つまり普通の人より、格段に環境を破壊している人、その人が普通の視聴者にお説教しているのだから不思議な現象である。

 環境を破壊している高給取りのテレビ・キャスターが、普通の給料の視聴者に「環境のアドバイス」をするのは、ちょうど「泥棒が真面目な人に『盗んではいけない』と説教している」ようなものである。

 次のような問いを考えてみよう。
「月給30万円の人がある時に『環境』に目覚めて節約に心がけ、その結果、25万円で生活ができるようになったとする。残りの5万円をどうするのか?」

 5万円余ったのでドライブに行くというのではダメだ。セーターを買っても飲みに行っても、それでは節約した意味が無い。預金すれば、そのお金は銀行から会社へ渡り、社長さんが使う。使い手が変わっただけで環境への影響は同じだ。まして、そのお金を引き出して自分が使えば、同じお金を2回使うのでますます悪くなる。

 でも私たちは初任給が25万円と30万円とどちらが良いかと言われると30万円を望む。そういう心がけで「環境」を論じてはいけない。でも、やはり30万円が良い。それなら「環境」を考えるのは止めよう。心に思ってもいないことを言うのは不誠実だ。

 日本人は「環境に優しい行動」を取ることができるだろうか?

 それには「お金」の尺度を捨てることである。仕事をお金ではなく、その人、その人の使命で選ぶ。松坂は野球を選択し、契約金は問題にしない。第一段階はそれで「環境に対する向き」が決まる。

 それでも、まだダメである。日本人のように優秀な民族が真面目に働けば競争力のある製品ができる。良い製品はどんどん売れるからお金が入る。真面目に働くのは大切なことだ。そうするとお金が入り、お金があれば使うのがまともな事だから、我々は真面目には働けない。

 さらに矛盾は拡大する。日本国憲法には「勤労の義務」がある。そして勤労は我々の生き甲斐だ。そうするとお金が入る。どうにもならない。遊びほうけている人が環境に良く、環境のためには一所懸命働いてはいけないというのだから面倒だ。

 科学技術が発達していなければ、一所懸命働いても環境を壊すことはなかったが、もう手遅れだ。我々は科学技術を放棄することは出来ない。

 科学技術が発達してしまったので、我々は「環境を守ること」と「一生懸命働くこと」のどちらかを選択しなければならない。そして、現在の私は後者しか選択できない。

おわり