― 学費問題 その2:奨学金 ―

 さて、学生団体のポスターをもう一度、眺めてから話を再開したい。前回はやや右のポスターに中心をおいて論評したが、今回は重点を左に移す。「お金の心配なく学びたい」というポスターである。

 大学で勉強するためにはお金がいる。まずは、「大学」というものを建設しなければならないし、教室に研究室、図書室もいるし、教授も必要だから、「お金の心配なく学びたい」というのは論理的には少し矛盾している。

 でも、このポスターの言いたいことは、収入の無い学生があまりお金の心配なく大学に通いたいという意味だから、第一に「奨学金」のことを考えてみなければならない。

 下の表は日本とアメリカで、大学生への奨学金の給付状況を示したものだが、給付型と言われるものは「学生にそのまま差し上げる」という奨学金で、アメリカでは640万人が受け取っているが、日本にこのタイプはない。


 貸与型は「貸してあげる」というもので、アメリカでは、870万人、日本ではたった75万人である。この2つの奨学金を給付されている学生の合計は、アメリカが1500万人、日本が75万人だから人数でいうとアメリカは20倍。そして金額では10倍も違う。

 それでは実際に、どの程度のお金をもらえるのか、ざっと計算してみる。

 日本とアメリカは世界の中でも大学への進学率が高く、約50~60%である。「約」がついているのは制度の違いとか、夜学、各種学校など細かいことを言うとなかなか難しいためである。「正規の高等教育機関にフルタイムでいく学生」という意味では、日本もアメリカも約50%の進学率である。

 日本の18歳人口は、かつてのベビーブームの時には200万人という時代もあったが、今では少子化で120万人程度である。だから進学率が半分として約60万人が大学に進学する。大学は4年間だから、合計で240万人。そのうちの75万人が奨学金を受け取っていることになる。

 金額は奨学金を貰っている学生の一人当たり一年で70万円。学生全部にならすと23万円だから、確かに全学連がポスターで主張しているように安心して勉学できるような奨学金ではない。

 これに対して、アメリカは18才人口が400万人だから進学率50%として大学進学が200万人。4年間で800万人という事になる。給付人数より少ないが、一人の学生が複数の奨学金を貰い、その平均が一人当たり1年間で70万円ぐらいになる。

 少しゴチャゴチャしたが、簡単にまとめると、
1) 日本の学生の奨学金     1人1年 23万円
2) アメリカの学生の奨学金   1人1年 70万円
この金額の差は決定的である。

 このように、全学連と民青同盟が主張しているように、日本は明治時代には教育大国だったが、現在はすでに教育という面ではあまり大国とは言えなくなっている。なぜ、こうなったのだろうか?日本は教育に熱心では無くなったのだろうか。

 それには深い理由があるのでそれは次回にして、それに入る前に進学率の国際比較を簡単に示しておきたい。下のグラフは先進5カ国の進学率である。

 日本とアメリカはおおよそ似ているが、イギリスは1985年頃から政策的に高等教育を進めてきたので、大学進学者やパートタイム(放送大学など)が急増した。しかし、日本が何かにつけて参考にするドイツは進学率が33%で日本と比較してかなり低い。

 世界では先進国ではない国がほとんどだから世界平均から考えると日本は断然、大学への進学率が高いと言うことができる。だからどうかということは次回に回すことにして、事実はこうなっている。

つづく