― 学費問題 ―

 講義に行く時に廊下を歩いていたら、下の掲示に気がついた。「全学連」や「民青同盟」という歴史的にもれっきとした学生団体が呼びかけているポスターである。内容は「学費問題」である。二つのポスターを見比べると少しニュアンスは違うが、いずれも「学費が高いので、他の人に払って貰いたい」という内容である。

 このポスターでは次の3つのことに関係がある。

1) 「世界一高い日本の学費」とあるがそれはなぜか?
2) 大学生の学費は、受益者(学生)以外がなぜ払わなければならないのか?
3) 現在の日本の大学生は、社会が学費を払う価値があるのか?

 まず最初の国際比較から行きたい。

 日本は明治以来、「教育立国」として繁栄してきた。今で言う小学校全入制度が成功して、文盲が極端に少なくなり、その割合は当時の世界を制覇していたヨーロッパ各国より低いという状態になった。国民全員の力が上がるというのは大変なことで、軍隊でも会社でもなんでも上手くいくようになる。明治政府の政策はその意味ではたいしたものだった。

 ところが、その後、日本は日露戦争における日本海海戦で大勝利を収めた。日本の歴史上、非常に重要なこの海戦に勝った理由は「用意周到な準備、兵士の教育、猛訓練、そして全員の真面目な心」であった。

 しかし、歴史的な大勝利で軍隊自身も、また教育関係者も油断した。勝利した原因は「神風」であるということになったため、それが太平洋戦争の敗因の一つとなり、現在では教育立国日本はすっかり影を潜めた。

 お金が教育のすべてでないのは当然だが、まずは教育に使われるお金から見てみる。

 上のグラフはOECD各国が高等教育にどのぐらいの公的資金を使っているかという図であるが、日本は一番右、つまりOECD各国の中で教育に使うお金の割合が最低である。かつて国の財政を犠牲にしながら教育に力を注いだ日本、その姿に昔日の面影はない。

 でも、日本は戦争に負け、廃墟の中からはい上がってきた。それには朝鮮戦争があり、本田宗一郎、松下幸之助を中心とした製造業の興隆があった。彼らは学歴もそれほど高くなかったが工夫と努力によって世界的な地位を築いた。

 その後の日本の産業界も「30人に一人の頭脳と、29人の首から下」と言われた。つまり、頭の良い人、計画する人は30人に一人いれば十分で、他の人は忠実に「指示待ち」「実行」だけで良いということである。

 そして、日本政府の号令による「日本株式会社」の中で、会社は「集団行動力」によって世界の産業界に君臨した。

 でも、バイクも、テレビも、自動車も、ヘリコプターも、パソコンも、インターネットですら、すべてアメリカ人が発明したことから判るように、日本が自らの技術力で新しい産業を起こすことはまだ一度もできていない。

 技術ばかりではない。商業を見ても、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、100円ショップ(1ドルショップ)、フランチャイズ方式の料理屋なども、生まれはすべてアメリカである。ホリエモンなどで脚光を浴びたファンド、新しい生命保険方式もアメリカに学んでいる。

 日本は政治や軍事もアメリカ追従であるが、技術や商業ですらアメリカを真似ている貧弱な国なのである。

 残念!!実に残念だ。

 21世紀を迎えて、これからは「30人は30人それぞれの頭脳」でなければ世界と伍することはできない時代と言われている。それを打破するのは教育を重視することがもっとも効果が高く、そして正攻法だろう。

 だから、高等教育の充実は大切である。全学連、民青同盟のご意見も判る。

 つづく