― 茶髪主義 (1)―

 歴史を紐解くと、太古の昔は別にして、有色人種が白色人種の領土を正面から攻撃した例は6つある。

 第一に、アラビア半島に起こったイスラム国家の一部が分裂し、スペインとアフリカ大陸の間にあるジブラルタル海峡を越えて「後ウマイヤ朝」を作った。時は8世紀。首都はコルドバだった。

 第二は、チンギスハーンが築き上げたモンゴルがロシアを席捲し、東ヨーロッパに攻め入ったことがあった。指揮官はチンギスハーンの孫にあたるバトゥ。大平原を横断して一気にキエフまで攻め入った。13世紀の事である。

 第三は、1453年4月に、あの東ローマ帝国のコンスタンティノポリスの大要塞を陥落させたオスマン帝国第7代スルタンのメフメト2世である。トルコの軍隊は深くヨーロッパに攻め入り、ウィーン攻防戦を演じた。

 第四は、1853年のクリミア戦争でトルコ軍がドナウ川を渡河してロシアを攻めた。ただ、イギリスとフランスがトルコと同盟していたので、半分というところだろう。

 第五は、1904年の日露戦争で、有色人種の日本がロシアに宣戦布告、満州の覇権を奪い、樺太を占領した。日本海海戦の大勝利はコンスタンティノポリスの陥落以来の有色人種の大勝利だった。

 そして第六は、1941年12月8日、日本軍によるアメリカの真珠湾基地とマレー沖でのイギリス東洋艦隊への攻撃である。特に日本海軍航空隊によるイギリス東洋艦隊への撃滅がすごい。

 このうち、最初のイベリア半島のイスラム国家は正式な国家間の戦闘行為と分類するのは疑問であり、歴史的には5回であり、戦艦、大砲などが多用される近代戦になってからの有色人種と白色人種の戦いとしては、1853年のクリミア戦争(トルコとロシア)と、1904年の日露戦争、1941年の日本と連合軍の戦いの3つである。

 近代科学で武装したヨーロッパは大航海時代の後、他の地域とは桁違いの軍事力を身に付けて、世界中の国を植民地にした。その期間は15世紀から19世紀まで約500年にわたり、その結果、「白色人種が有色人種を殺す権利がある」という奇妙な常識が世界に行き渡った。

 ガンジーという類い希な才能を持つ人物のおかげでインドは独立を果たしたが、それまでの独立に関する長い戦いの中で多くのインド人がイギリス軍によって虐殺されたことが知られている。時には無抵抗のインド人をイギリス軍が機関銃で殺戮するという方法も行われた。

 アヘン戦争における中国も同様である。中国が麻薬の取引を拒否したと言う理由でイギリスは戦争をしかけ、個別の戦闘では中国人が2000人死亡した時、イギリス兵はだいたい10人規模の犠牲しか出していない。戦闘という名の付いた虐殺である。

 このようなことが500年続き、「白色人種は有色人種を殺しても良い」という感覚が白色人種の中ばかりではなく、有色人種の中にも起こってきた。

 1941年、日本はアメリカ、イギリス、オランダに対して宣戦を布告し、真珠湾、マレー半島、フィリピン、インドネシアなどに攻め込んだ。宣戦を布告したのは有色人種の国ではなく、白色人種の国であった。

 それなのになぜ、日本はマレー半島、フィリピン、インドネシアに攻め込んだのかというと、マレー半島はイギリス、フィリピンはアメリカ、インドネシアはオランダの植民地だったからである。

 日本軍が戦ったのは、マレー沖ではイギリス東洋艦隊、その他の地域では主としてヨーロッパの軍隊だった。日本軍の捕虜虐待として知られているバターンでも、1942年4月、3万の日本軍が10万のアメリカ軍(植民地軍としてフィリピン人も含む)を攻めて要塞を落とし、捕虜にした。

 この捕虜の虐待が日本の敗戦後、問題となり戦争犯罪とされたが、1945年8月、ソ連は日ソ中立条約を一方的に破棄、満州国に攻め入り約60万人の日本人を捕虜としてシベリアに抑留し、多数の日本の婦人を暴行した。抑留された日本人の死者は約6万人に上った。

 同じく1945年の3月10日、8月6日、そして8月9日にアメリカ軍は日本の東京、広島、長崎に対して原子爆弾を含む、主として婦女子を狙った爆撃を行い、約30万人を虐殺した。

 日本軍の敵は常に白人の軍隊と基地であり、アメリカやソ連は日本人なら誰でも殺した。

 戦後、「白人は有色人種を殺しても良い」という「常識」が働き、アメリカ軍の空爆とソ連の抑留は不問に付され、有色人種の植民地は回復し、日本は白色人種に占領された。

 広島・長崎の原子爆弾投下が人類の将来を含めると、ナチスのユダヤ人虐殺より質的には深い「非人道的行為」であるにも拘わらず、国際世論も、日本人自身も「アメリカを非難する」ことをせず、「広島・長崎から平和を学ぶ」というトンチンカンな結論に至っている。

 中国は100年間のイギリスの香港占領が解かれる時、エリザベス女王が出席して式典を行った。

 日本人も中国人も「白色人種が有色人種を殺すのは良いが、有色人種が白色人種を殺すのは許されない」という考えにとらわれている。

 茶髪現象である。

つづく