4.2 燃焼時のガスの発生
4.2.1 燃焼時のガス発生の概要
ルイ16世の治世に難燃材料の研究が貴婦人を火災から救ったように難燃材料の研究は現代でも大変意義のある研究である。仮に有機材料の大半が難燃化し引火性のない材料になったら火事の危険性は大幅に減り、火災による死亡者も激減すると考えられる。すでにこの講で述べた技術を用いれば多くの高分子材料を難燃化することが可能なレベルに来ている。しかし現実的には材料の価格の問題やその他の特性の低下などで有機材料全体を難燃化することは困難である。
表 3.2 1 燃焼に関係するガスの種類と人体に対する影響
表 3.2 2 燃料生成ガスの組成(CO,CO2を除く)
難燃材料には成形時の問題と材料の疲労、力学的特性の面で問題のある材料と言えよう。成形時には揮発分やブリードが成形品に種々の問題点を与える。これについては有機リン化合物でBCPという切り札が登場している。力学的な面では難燃剤は「石ころ」と言われるように性能を落とす物であると認識されており、さらに疲労については今後の研究にゆだねる必要はあるが著者らの研究に因れば材料の疲労を悪くする場合が多いようである。有機難燃材料のもう一つの問題は、難燃剤の毒性、環境適合性、資源性の問題である。難燃剤の中には少なからず毒性を有するものがあり、難燃のメカニズムから反応性を要求し、その結果人体にも影響を及ぼすものが多い。また燃焼時に合成材料から毒性のガスが出る問題は難燃材料にかかわらず、かなり古くから問題になっていたものである。難燃材料では特にハロゲン化合物系のものでは燃焼時の発生ガスの問題を避けては通れない。この種の問題については残念ながら我が国より欧米諸国の方が研究が進んでおり、欧米では燃焼時のガスの研究が盛んである1),2),3),4),5),6)。
表 3.2 3 燃焼時に発生するガスの組成
我が国では輸出用に欧米の規制のある難燃剤を使用すると輸出ができないので一大事であるという認識が一般的であるが、輸出できないことより我が国の国民を火事の場合の有毒ガスから守ることの方が重要であり、既に世界の有数の経済大国になったからには我が国の国民の安全を第一に考えるべきであろう。
図 3.2 1 プラスチックの燃焼による煙の毒性と種々の毒性化合物の比較
4.2.2 酸素濃度と燃焼ガス
コーンカロリーメーターの得意な分野にガス分析がある。ここでは酸素濃度の変化による一酸化炭素と二酸化炭素の発生量についての基本的なデータを示す。
図 3.2 2 酸素濃度に対する発生量とCO2 / CO の割合 (PMMA)
酸素濃度の上昇とともに、燃焼が十分に進むので、一酸化炭素の発生が低減する。この様な発生ガスの研究は今後さらに進むものと考えられる。
4.2.3 COの抑制
図 3.2 3にHDPE系でのCO発生量を示す7)。
図 3.2 3 高密度ポリエチレンの燃焼時の一酸化炭素の発生と水酸化アルミニウム
4.2.4 HClの抑制
他に無機難燃剤との発煙・発ガス抑制効果の比較に関して、PP系での発煙量図 3.2 4にPVC系でのHCl発生量を示した。
図 3.2 4 塩化ビニルの塩化水素発生抑制効果
しかし、塩化ビニルに無機難燃剤を添加した実験によると,塩化水素の脱離を防止し,塩化水素ガスの発生を少なくする効果が認められるが、水酸化マグネシウムと炭酸カルシウムでは分解温度と逆の結果が得られている。
参考文献
1) Emmons,H.W., "Fire and Polymers", G.L.Nelson ed., Chap.28 (1990)
2) Hirschler, M.M., "Fire and Polymers"",Ed.by Nelson,G.L.", Chap.28 (1990)
3) Alarie, Y., Anderson , R. C., Toxicol.Appl.Pharmacol. pp.341-345 (1979)
4) Alexeef, G. V., Packham, S. C., J. Fire Science, Vol.2, pp.306-310 (1984)
5) Birky, M. M., Halpin, B. M., Caplan, A. M., Vol.3, pp.211-216 (1979),
6) Emmons,H.W., Fire and Polymers",Ed.by Nelson,G.L.,Chap.6, (1990)
7) 西沢 仁、高分子難燃化の技術と応用、シーエムシー、p.307-313、1996
4.2.1 燃焼時のガス発生の概要
ルイ16世の治世に難燃材料の研究が貴婦人を火災から救ったように難燃材料の研究は現代でも大変意義のある研究である。仮に有機材料の大半が難燃化し引火性のない材料になったら火事の危険性は大幅に減り、火災による死亡者も激減すると考えられる。すでにこの講で述べた技術を用いれば多くの高分子材料を難燃化することが可能なレベルに来ている。しかし現実的には材料の価格の問題やその他の特性の低下などで有機材料全体を難燃化することは困難である。


難燃材料には成形時の問題と材料の疲労、力学的特性の面で問題のある材料と言えよう。成形時には揮発分やブリードが成形品に種々の問題点を与える。これについては有機リン化合物でBCPという切り札が登場している。力学的な面では難燃剤は「石ころ」と言われるように性能を落とす物であると認識されており、さらに疲労については今後の研究にゆだねる必要はあるが著者らの研究に因れば材料の疲労を悪くする場合が多いようである。有機難燃材料のもう一つの問題は、難燃剤の毒性、環境適合性、資源性の問題である。難燃剤の中には少なからず毒性を有するものがあり、難燃のメカニズムから反応性を要求し、その結果人体にも影響を及ぼすものが多い。また燃焼時に合成材料から毒性のガスが出る問題は難燃材料にかかわらず、かなり古くから問題になっていたものである。難燃材料では特にハロゲン化合物系のものでは燃焼時の発生ガスの問題を避けては通れない。この種の問題については残念ながら我が国より欧米諸国の方が研究が進んでおり、欧米では燃焼時のガスの研究が盛んである1),2),3),4),5),6)。

我が国では輸出用に欧米の規制のある難燃剤を使用すると輸出ができないので一大事であるという認識が一般的であるが、輸出できないことより我が国の国民を火事の場合の有毒ガスから守ることの方が重要であり、既に世界の有数の経済大国になったからには我が国の国民の安全を第一に考えるべきであろう。

4.2.2 酸素濃度と燃焼ガス
コーンカロリーメーターの得意な分野にガス分析がある。ここでは酸素濃度の変化による一酸化炭素と二酸化炭素の発生量についての基本的なデータを示す。

酸素濃度の上昇とともに、燃焼が十分に進むので、一酸化炭素の発生が低減する。この様な発生ガスの研究は今後さらに進むものと考えられる。
4.2.3 COの抑制
図 3.2 3にHDPE系でのCO発生量を示す7)。

4.2.4 HClの抑制
他に無機難燃剤との発煙・発ガス抑制効果の比較に関して、PP系での発煙量図 3.2 4にPVC系でのHCl発生量を示した。

しかし、塩化ビニルに無機難燃剤を添加した実験によると,塩化水素の脱離を防止し,塩化水素ガスの発生を少なくする効果が認められるが、水酸化マグネシウムと炭酸カルシウムでは分解温度と逆の結果が得られている。
参考文献
1) Emmons,H.W., "Fire and Polymers", G.L.Nelson ed., Chap.28 (1990)
2) Hirschler, M.M., "Fire and Polymers"",Ed.by Nelson,G.L.", Chap.28 (1990)
3) Alarie, Y., Anderson , R. C., Toxicol.Appl.Pharmacol. pp.341-345 (1979)
4) Alexeef, G. V., Packham, S. C., J. Fire Science, Vol.2, pp.306-310 (1984)
5) Birky, M. M., Halpin, B. M., Caplan, A. M., Vol.3, pp.211-216 (1979),
6) Emmons,H.W., Fire and Polymers",Ed.by Nelson,G.L.,Chap.6, (1990)
7) 西沢 仁、高分子難燃化の技術と応用、シーエムシー、p.307-313、1996