― アメリカ産牛肉とダイオキシン ―
私は、毎日、忙しいように思うし、人からも「お忙しいですね」と言われる。自分では忙しいつもりなのだが、それでも、本当は私は暇なのではないか?と思うことがある。それは「アメリカ産牛肉」と「ダイオキシン」のことがニュースに出た時である。
農業問題が政治的である・・・つまり表面で言われていることは、本当は枝葉末節で、本当の狙いは別のところにある・・・という場合が多いことは承知している。例えば「アメリカ産牛肉は安全だ」というと「そんなことはわかっている。でも、この問題は・・・・があるので、一応、アメリカ産牛肉が危ないということで報道しているだけだ」とも言われる。
でも、ここではそのような政治的で不真面目な話は相手にしたくない。とりあえず真面目に話をしようと思う。
まず、アメリカ産牛肉が安全かどうかはあまり議論しなくてもわかるはずである。それは、次の論理で行けばよい。
1) アメリカ人はアメリカ産の牛肉を食べているのか?
2) もし食べていたら狂牛病患者がいるのか?
3) もしいなければアメリカ産牛肉が安全である
私はいつも学生に、「事実→論理→意見→感情」と順序を追って考えていくことを勧めている。いくらブッシュ大統領が嫌いだからと言って「ブッシュ大統領が嫌いだからアメリカ産牛肉は危ない」という理屈はあまり感心しない。
ブッシュ大統領が嫌いでもアメリカ産の牛肉は安全だということはあるのだ。「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」という諺はあるが・・・
次に、アメリカに狂牛病患者はいるのか?について考えてみる。この質問は非常に難しい。なぜ難しいかというと、
1) アメリカは狂牛病患者がいないと発表している。
2) 日本ではそれを疑っている人がいる。
3) 日本の政府もマスコミもアメリカに狂牛病患者がいるか調査も取材もしない。
からである。一番、心配なことなのに、政府はこのことについて調査をしないし、マスコミも取材をしない。
「アメリカの牛は危ない」という前提での建前論だけをやっているから、事実はどうでも良いのである。そして、もう一つは「狂牛病患者がいるのか?」ということ自体が難しいのである。
狂牛病という病気は奇病ではあるが、一般的なもので狂牛病にかかった牛の脳を食べて発病する例は少ない。ほとんどは「原因不明」である。厚生労働省の発表では日本で狂牛病患者は1年に80人ほど発生し、現在、患者数は800人を越すという。この800人の狂牛病患者に「ウシから感染した人」はいない。
日本の人口が1億2千万人でアメリカは2倍強であるから、アメリカで年200名程度は自然発生の狂牛病である。だからたとえばアメリカで昨年、220名の人が狂牛病になっても特に増えたということにはならない。
狂牛病というのは感染力が弱く、さらに、狂牛病にかかったウシの肉を食べても狂牛病にはならない。ウシの肉では感染せず、頭を食べなければならない。かつてイギリスで毎年、数万等の狂牛病のウシが発生していた時でも人間に感染したのは合計で140人。1年に10名程度である。
数万頭のウシが狂牛病にかかっていて、あまり注意せずに食べていても毎年10名程度しか狂牛病にならない。だから、数頭のウシが狂牛病だからといって患者が発生するはずも無く、発生してもわずか1,2名であり、自然発生狂牛病が100~200名いるので、その中に紛れるのである。
つまり、全く気にする必要のない奇病なのである。
私はブッシュ大統領が嫌いであるが、アメリカ産の牛肉が安全であるのは間違いないと思っている。狂牛病騒動は日本のマスコミが作り上げた幻想である。おそらく日本人はみんな忙しく、マスコミが「危ない」といえば危ないと思うしかないのだろうが、私は暇なので「いったい、アメリカ人は狂牛病で困っているのか?」と調べる時間があるが、そうすると安全であることがわかる。
でも、問題がこじれたので今では別のことも議論されてややこしい。
日本とアメリカの間の輸入に関する約束を守るのは大切だ。だから「背骨は輸出しない」と約束しておきながら背骨を輸出したから問題だという感情論はわかる。
「約束を守らないアメリカから輸入するのはけしからん」というのは正しいが、それは「アメリカ産牛肉が危険かどうかとは別問題」である。その点では、問題を起こしたアメリカの食肉業者が「サンフランシスコに出荷しても安全なのに、日本に出荷すると危険というのはどういう訳だ?」と言っているのは商売の道徳的には問題だが、事実としては的を射ている。
アメリカ産牛肉の安全問題はダイオキシンの騒動に似ている。あれほど毎日のようにダイオキシン報道をしたマスコミはすっかり報道していない。なぜなら、ダイオキシン騒動は日本のマスコミによって作り上げられた粉飾、あるいは偽装だったからである。
まさか焼却炉メーカーや分析センターが儲かるから報道したのではなく、本心から危ないと思ったのだろうが、その経緯(いきさつ)はもしホリエモンが本当に粉飾をしたのなら、それより大規模で継続的であり、姉歯元建築士が偽装をしたのなら、それより大がかりである。
ダイオキシンは焚き火をしても発生する。タバコはもちろん、焼き芋、焼き鳥などですぐ「危険」と呼ばれるレベルになる。でも焚き火、タバコ、焼鳥屋のおやじ、野焼きの人、焼却炉の掃除夫・・・昔から何百年と続けているが、一人もダイオキシンの障害者はいない。狂牛病に似ている。危ない危ないと言われるが誰も病気にならない。
かつてダイオキシンは、「青酸カリの6万倍」「人類最強の毒物」と報道された。これほど事実と違うコピーを誰が作ったのだろう?また、十万頭を超える狂牛病のウシを食べていて140人しか犠牲者が発生しないのに、なぜ危険な病気なのだろう?
私がダイオキシンの毒性が弱いことを講演で話をすると、聞いている人はみんな「信じられない」という顔をされる。でも「猛毒なら、何で患者さんがおられないのか?」と聞くと答えがない。先日、ある市議さんとお話をしていたら、農家の人が芋の蔓を焼くとダイオキシンが出ると苦情が来るらしい。
畑で芋の蔓を焼くと危険なのか?とその農業の人は困惑している。まるでおとぎ話や笑い話の類だが、現代の日本では真剣な相談である。
現代の日本は何か深く病んでいるような気がする。日本にはダイオキシンの患者さんが一人もいないのにダイオキシンは毒物である。焼鳥屋はダイオキシンが発生しやすい条件なのに営業は禁止されていない。タバコは税金が取れるので焼いてもダイオキシンは発生しないと言う。まったく支離滅裂である。
ところで、食の安全という点でこの二つのことを真面目に考えれば、
1) アメリカ産牛肉を食べて日本人が狂牛病になることはない。
2) 焚き火や焼却炉から危険なダイオキシンが出ることはない。
3) もちろん焼鳥屋の営業を禁止する必要はない。
4) もちろんアメリカ産の牛肉を輸入するのは食の安全という点では何ら問題はない。
ということになる。
終わり