-食品添加物は大丈夫か?- 

 

 毎日毎日、食べ物を作って愛する家族に食べさせている人の多くが、食品添加物に対して強い不安に思っています。

 なぜ、家庭で食事を作っている人が食品添加物に不安を感じるかというと、過去に食品添加物の事件がいくつか報道されたこと、いま売られている食品に使われている食品添加物がいくら安全と言われても、どうせメーカーは売るために少しぐらいのウソはつくだろう、監督する役所もメーカーとグルではないか?という疑いを持っているからです。

 国民の食卓を守る国や自治体の役所がこれまで本当に信頼できる政策や行動をとってきたなら、これほど食品添加物にたいする社会的な不安感が定着することはなかったと思いますが、残念ながら歴史を見ると、役所は必ずしも消費者側ではなく、どちらかというと生産者保護に重点を置いていたからです。

そうなると、愛する家族のために安全なものをと願っている人には信頼できません。そこで、ここでは何の利害関係もない著者が、消費者の立場に立って、食品添加物について考えてみたいと思います。

まず、なぜ、食品添加物が使われるようになったかということから始めます。

もともと、食品添加物は食品の腐敗を防止するのが主な目的で、食中毒の多い時代にはたとえばサルモネラ菌などの毒性の強い細菌の繁殖を抑えることが重要でした。黄色ブドウ球菌、サルモネラ菌、腸炎ビブリオ、病原性大腸菌、ウェルシュ菌、カンビロバクター、セレウスなどが有名な細菌で多くの人が犠牲になったからです。食品添加物が食品中の細菌の繁殖を抑え、多くの人の命を助けたという点では人間にとって食品添加物は感謝しなければならない物質でしょう。

また食品の中で細菌と並んで怖いのは「カビ」です。

中世ヨーロッパではライ麦で作ったパンでよく重症になる事件が起きています。ライ麦のカビはバッカクアルカロイドという毒物を出し、その症状はケイレンで始まり、次第に手や足の先が腐っていくという恐ろしいものです。

この他にも歴史的に有名な事件としては、40年ほど前にイギリスのロンドンで起った「七面鳥X事件」があります。この事件は、10万羽という膨大な数の七面鳥が肝臓ガンで急死したのですが、その原因は七面鳥に飼料として与えたピ―ナッツに麹カビが繁殖してアフラトキシンという発ガン物質ができたからでした。

この発ガン物質はラットの餌に10億分の15を混ぜただけで、すべてのラットが肝臓ガンにかかるほどの強力なものですから、七面鳥もひとたまりもなかったわけですが、食品のカビの恐ろしさを示すものとして記憶にとどめておいた方が良いでしょう。

日本でも50年ほどまえ、食糧難時代だった頃、黄変米(おおへんまい)事件というのがありました。ご年配の方はご記憶があると思います。この事件は、タイやエジプトから輸入したコメにカビが生えていてコメが黄色に変色した事件で、幸い日本国内には犠牲者はでませんでしたが10億トン以上のコメを廃棄したことがあります。

このように、食品に細菌が増殖したりカビが生えたりするととても危ないものです。そこで食品の歴史をよく知っている専門家は食品が危ないと思うのです。

それに対して家庭の人は普段、新鮮なものを買い求めますので、細菌やカビより食品添加物を心配するということになるのです。次の表は社会的に広く行われたアンケートの結果を整理したもので、「食品の中で危ないと感じるものは何ですか?」という設問を作り、専門家と主婦に答えてもらったものです。

表から判りますが、専門家は食品の危険というと、そもそも食品中に入っている毒物が危険で、その次がたばこ、そして、これもまた食品中のウィルスと答えています。つまり食品の危険は食品そのものにあるのであって、それに添加されたものなどではないという見解です。

それに対して主婦はまったく違います。主婦が心配しているのは、食品そのものではなく、食品添加物、二番目が農薬、三番目がお焦げという順番ですから、食品そのものというより、それに「付いているもの」という感じで捉えています。

このアンケートで専門家が食品中の毒物として具体的に答えているを整理しますと、、食品中で増殖した細菌やカビというより、食品中にもともとある毒(キノコの毒やワラビの中の発ガン物質など)を念頭に置いている用です。いずれにしても添加物より食品そのものが危険と考えているのです。

このように専門家と主婦の回答が違う理由は、専門家が「事実」に基づいて判断しているのに対して、主婦は情報が少ないこともあって、「カン」もしくは「マスコミ報道」から判断しているからでしょう。

でもなぜ、これほど主婦が食品添加物を恐れるのでしょうか?それにはその理由があると思います。食品添加物は昔から食品の鮮度を守るために使われてきましたが、現代では別の目的のために添加されることも多くなってきました。たとえば、甘味料、着色料、発色剤、漂白剤、酸味料などです。

「確かに防かび、防腐のために食品添加物を使うなら良いけれど、着色や漂白など本来の食にはあまり関係のないものを添加してそれで健康を害するのはたまらない」という思いが強いのだと思います。

食品添加物と言うと、ヒ素ミルク、ズルチン、カネミライスオイル、チクロ、ハムの発色剤、グルタミン酸ソーダ、AF2、臭素酸カリウム、過酸化水素、BHAなどを思い出すでしょう。いずれもマスコミに大きく取り上げられ、騒がれたものです。

この中で、ヒ素ミルク、カネミライスオイルなどは「事故」ですから直接、食の安全とは関係が薄いものです。でも食の安全の話の中にヒ素ミルクやライスオイルが問題になることが多いので、錯覚するのもやむを得ないと思います。

それでは、ズルチン、チクロ、ハムの発色剤、グルタミン酸ソーダ、AF2、臭素酸カリウム、過酸化水素、BHAなどはどうでしょうか?確かに動物実験などでは多少の毒性があるのですが、現実的には食品添加物として使用されて、被害者がでたなどはほとんど出ていません。

それは甘味料、着色料、発色剤、漂白剤、酸味料なども同じです。食品添加物は最近の20年間ほどの日本では、数100種類使用されて来たのですから、本当に危険なら犠牲者がでるはずですが、ほとんど犠牲者がでなかったのです。それは大変、良かったことですが、その事実をしっかり頭に入れることも大切です。

さらに少し調査の範囲を広げて、第二次世界大戦後から60年間を調べても、甘味料として使われたズルチンを大量に食べた農家の人が一人亡くなっていますが、それ以外で大きな被害は報告されていません。また発ガン性についても特に食品添加物の影響ということは見られないのです。

私は食品添加物をほとんど心配していません。その理由は明快で「ずいぶん長く使ってきたのに、障害がでない」という事実です。人間の頭の判断には限界があり、また科学は不完全であまり信用できません。それに対して事実や歴史は信用できます。これほど長い間、さまざまな人が食品添加物を含むものを食べ、その中には体の弱っている人や体質が特別な人もいたと思いますが、それでもほとんど障害が出ないのです。

まず私は、次のように考えるべきと思います。
「食品添加物が添加されていない食品より、食品添加物が添加された食品の方が安全である。」

 最後にお役所の人とマスコミの人にお願いしたいと思います。お役所という立場からは消費者も生産者もともに保護しなければならないでしょうが、長い目で見れば消費者が安全なものを供給する方が生産者にとって良いのですから、両者の利害は一致しているはずです。もし健康に悪い食品添加物を販売している業者がいるとすればそのような業者を保護してもいずれ倒産するでしょう。またマスコミは危険性を少し過剰に社会に発信するべきと考えているのではないかと思いますが、常に事実に即し、ある時に危険と思って報道しても、その後の状態を見て危険ではないと判断したら、最初の報道と同じ程度にはっきりと「危険ではない」と報道してもらいたいものです。

 食品が腐ったり、カビが生えたりして多くの人が苦しみます。そのことと食品添加物の問題を総合的に判断する知恵が必要でしょう。

(食品添加物は数が多いので、今回は一つ一つの添加物についての解説を避けましたが、機会をみて代表的なものの安全性を示したいと思います。)

終わり