-放射線殺菌食物は安全か?-

 

 最近、あまり話題には上らなくなりましたが、日本のジャガイモは「放射線殺菌」をしています。放射線は危険なものですので、そんな危険なものを食品に使うなどもってのほかとの反対運動もされています。そこで、今回は、食の安全シリーズの一巻として「放射線で処理された食品は安全か?」について考えてみたいと思います。

 ジャガイモはそんなに古い食べ物ではありません。いまから500年ほど前、コロンブスがアメリカ大陸を発見し、スペイン人が南アメリカに侵入してインカ帝国を滅亡させたときに発見されたものです。でも食べるとすぐ体の調子が悪くなるので、毒をもつ食べ物と思われて普及しませんでした。

 それからしばらくしてヨーロッパでは徐々にジャガイモの毒を避けて食べる方法が見つかり、300年ほど前になると今のドイツのフリードリッヒ大王が農民に強制的に栽培させたのがきっかけで普及しました。

 このような歴史でも判るようにあのおいしいジャガイモも「毒」とは切り離せない食物なのです。ジャガイモにはもともとソラニンという化学物質が含まれていて、一度に2キロから3キロ食べると中毒になる可能性があります。また、ジャガイモは芽を吹きやすいのですが、発芽しためにはソラニンが多く含まれているので危険です。

 でも人間は少しぐらいの毒物が含まれていても、知恵を出して調理しておいしくいただくようになるのですから大したものです。現在のドイツでは主食ですから日本でジャガイモを食べることは何も問題はありません。

ジャガイモは保存性の良い食物ですが、芽が出ることだけは困りものです。そこで放射線で処理してジャガイモが芽を出さないようにします。これが「放射線照射ジャガイモ」です。

だから、「放射線で処理するジャガイモ」と「処理しないジャガイモ」を比較すると、処理しないジャガイモはとても危険です。といっても、日本は原子爆弾の被爆国でもあり、放射線には特別の恐怖心があります。実際に放射線で処理した作物を食べるのが不安という人もおられます。

 

そこで、放射線が不安な方のために、ズバリ「本当に安全か?」を示したいと思います。まず、不安の原因とその内容を整理してみます。

第一は、「放射線処理」と「放射能に汚染される」という用語が紛らわしいということです。専門家が紛らわしい技術用語を作り出すのが問題ですが、この2つは全く違うもので、ジャガイモを放射線で処理をしたからといって放射線に汚染されることは「絶対に」ありません。

第二は、放射線をあてた食品はごく一部ですが分解します。このことは専門家しか知りませんので話題には出ませんが、分解することの方を心配しなければなりません。事実、ジャガイモから作られるポテトチップスは美味しいものですが、熱をかけるのでジャガイモが少し分解しますので、分解してでてきた化学物質は動物実験で若干の発ガン性が見られます。

つまりジャガイモが放射線や熱で分解したり化学反応を起こすとアクリルアミドのような化学物質が少量でき、それがガンを発生させる危険があるのです。

このようなことから放射線で処理したジャガイモが安心かという質問があれば、私は次のように答えます。

「放射線で処理したジャガイモの方が、処理しないより安全です。絶対に安全かどうかは判りませんが、それは放射線で処理をしたからというのではなく、ジャガイモを油であげたり熱をかけたりした時と同じように少し分解したり、化学反応したりするからです。」

そして「結局安全ですか?」と聞かれたら。

「まったく、心配はありません」と答えます。

食品の安全については日本は世界でももっとも神経を使っていますから、放射線処理もジャガイモしか使われていませんが、アメリカ、チリ、フランスなど世界で30ヶ国ほどの国では多くの作物の殺菌などに放射線が使われ、いままで障害が報告されていません。

人間の知恵は限りがあるので、あまり理論的に考えて安全と言っても安心できませんが、長い間の実績は人間の判断力を超えて正確なものです。

つまり「放射線処理」は「原子力、核、核の廃棄物、放射能汚染・・・」などとは無関係であること、世界でかなりの実績があるということ、この3つが判っていることです。

その状態で、私が「まったく心配ない」という理由は、「すこし貯蔵するような食品は何らかの方法で処理するか殺菌しなければならない。その方法として薬品を使うより放射線が安全」ということでもあります。

つまり、「放射線殺菌は絶対に安全か?」と聞かれた場合には「危険性がある」と答えるのが正しいのです。でも「薬品の処理とではどちらが安全?」と質問されれば、まよわず「放射線処理の方が安全」と答えます。

 つまりこの問題は「毒が発生する食品、腐る食品」を「保存しなければならない」という時に、一番、安全な方法はなにか?という「選択の問題」なのです。だから「放射線処理した食品は安全」と言い切って良いと思います。

ジャガイモを安心して食べられるようになったところで、この問題について少し掘り下げたいと思います。

第一の視点は世界の食糧事情です。かつてフィリードリッヒ大王がジャガイモの栽培をすすめたようにジャガイモは優れた食品です。

国連農業機関の調査では世界で「腐敗して捨てられる食糧」は、食糧全体の4分の1にも上っています。餓死者は世界の人口の400分の1ですから、腐敗して捨てられる食糧の100分の1でも助かれば餓死する人を全員救うことができる計算になります。

また、餓死するおそれのある人は8億人と言われていて、こちらは世界の人口の8分の1ですから、もし腐敗する食品の半分の腐敗を防止することができれば飢餓に瀕している人たちも救うことができることになります。

 だから放射線殺菌の問題を、

・・・飢餓に苦しむ世界の人のために、すこし少し自分は危険をおかすか?

ということで理解しても良いと思います。

 もちろん、放射線で処理したジャガイモはまったく安全です。だから危険を冒すということではないのですが、この放射線で処理するジャガイモというものを題材にして、私たちは世界の人と自分の食というものを考えてみることが出来ます。

 日本人は自分たちの食べる食料の半分も自分たちでは作らずに外国に頼っています。だから自分の目の前の豊かな食材は世界の人たちがいて出来るものなのです。もし日本人だけなら私たちの食べ物は2分の1から3分の1になるのですから、いかに食料というものが世界の人とつながっているからが判ります。

 目の前に小さなパンが一切れあります。そしておなかが減った私と、私のそばに小さな、そしておなかを減らしたアフリカの子供がいます。腕力なら私の方が強いでしょう、知恵も私の方が発達しています。その子供をだましたり、力で押さえつけることも出来ます。でも私はその小さなパンを半分に割って、その子と二人で食べます。

 豊かな食事を一人でするより、貧しくても二人で食べる食事は私たちに生き甲斐を与えます。パンは一切れしかないのですから、それを二人で分けるのは私にとって危険なことですが、それより私は心の満足をとるでしょう。

 食の安全にはそんな問題もあるのです。

 第二の視点は「ポテトチップスの発ガン性」です。

 この問題はすでに2002年にイギリスの新聞に取り上げられていますし、事実、動物実験で発ガン性が認められています。でもこれはいい加減な話なのです。

 食品でも、食品添加物でも何でも良いのですが、毒性があるといって騒ぎたくなった人がいるとします。その人は狙いをつけたものを取り上げ、一方では実験用の動物や植物をたくさん、集めます。そして毎日毎日、あるものを与え続けます。

 そうすると、どんな食品でも食品添加物でもかならず「どれかの実験生物に何かの異常がみつかる」でしょう。発ガン性、生殖異常、精神障害、奇形の発生、肝臓肥大・・・何でも良いのです。ともかく病気になるまで与えるのですから、かならずどれかの動物は病気になります。

 その結果を新聞に発表すれがたちまち有名になります。新聞も販売部数を増やし、標的にされたものと、それを信じて不安に思った人が被害者で、研究者と新聞社はハッピーです。

 ポテトチップスの発ガン性についての実験はまじめなものですが、普通にポテトチップスを作り、普通に食べていればガンになることはありません。だから、その意味では「ポテトチップスを食べるとガンになる」というのも、「ポテトチップスを食べてもガンにならない」というのも両方とも正しいのです。

 そして本当の正解は、「ポテトチップスを食べても問題はない」ということなのです。もし私たちがほんの少しの発ガン性や生殖異常を心配するなら、何も食べないことです。そして1ヶ月程度で餓死すれば、病気には罹らないですみます。

 この世に「絶対安全」などというものはないのです。人間ですらいつかは死ぬのですから死亡の危険の中で生きているのです。問題はそんなところにあるのではなく、生き物としての人間がその知恵を活かしてなにを「選択」するか、というところにあるのです。

 わたしはパンを二つに割ります。それはわたしにとって危険きわまりないことですが、それでもわたしは割ります。

おわり