ネットワーク頭脳への旅立ち!

1996年執筆・・・学生へ

 アメリカは急激に変わりつつある.何が変わっているのだろうか?大学に行くと,化学,材料,そして機械,電気に至るまでアメリカ人の大学院生は数えるほどしかいない.研究室にはアジア人ばかりである.何十年か前には若い学者で溢れかえっていた原子力工学にはすでに人影すらない.

 アメリカの大学院生はどこに行ったのだ?

 いまから3年前,フロリダで一つの実験が行われた.映画や音楽の配給会社が「双方向通信」を始め,見たい映画や聞きたい音楽はいつでもどれでも最初から自宅で見ることができる.いわば通信カラオケの本格版で,ビデオやCDはもう買う必要も借りる必要もなくなった.


 社会の変化は趣味の世界だけではない。サンフランシスコのような大都会の人口が減少しつつある.通信の発達で大都会でオフィスを持たなくてもビジネスの成功するようになった.郊外でも十分な情報が得られるからである.しかし,こんなことは来るべきネットワーク世界のほんの入口に過ぎない.

 アメリカの学生は情報の分野にいる!!そしてネットワーク世界を自分の「「ネットワーク頭脳」に取り込もうとしているのだ!

 40億年前に生物が誕生し,7億年前に爆発的に増えた生物は遺伝子である「DNA」にその情報を蓄積し,地上を支配していった.最大のDNA情報を持つ地上の生物はあの恐竜である.恐竜は圧倒的なDNA情報の力で他の生物を寄せつけずこの地上を支配するように見えた.

 しかし,恐竜の支配はつかの間の出来事で、小さな,弱々しい哺乳類の出現で終わりを遂げる.哺乳類は巧みな知恵で爬虫類を追いつめる.そこにさらに人類が誕生し,DNA情報に変わる圧倒的な「脳情報」であらゆる生物の上に君臨した.

 生物の歴史は強いものが支配する歴史である.そしてかつてDNA情報に優れた恐竜が地球を支配し,今は脳情報で哺乳類が爬虫類を駆逐し,人間がライオンをも支配する.腕力もなく,体も小さく,武器もない人間にどんな猛獣でも相手にならない.情報は「力」であり,そしてそれは嫌がる相手もねじ伏せることができる「暴力」なのである.

 恐竜のDNA情報は100ギガビットに達したが,それは人間の脳情報に比較して100倍も少ない.しかもDNA情報は「書き込みのできない情報」である.人間の脳情報は書き込みができるので,生まれてからの知恵も活用できる.どんなに体が大きい動物も,情報量の多い人間の敵ではない.

 そんな人間の天下に異変が起こりつつある.パソコンとネットワークが新しい情報の世界を創生しつつあるのだ.人間の頭の外にある新しいこの「外部情報」はすでに人間の頭脳情報の量はさらに1000倍に達しようとしている.それは例えば,こういうことだ.

 自分の頭脳の中にあらゆる知識を詰め込み、それを武器にして戦おうとするのが「旧人類」である。しかし、人間の頭は硬い頭蓋骨で覆われている。詰め込むのは辛い。そして詰め込める情報にも限りがある。

 そこで自分の身の回りを最新の情報機器で固めるのだ。そこに貯め込まれ、瞬時に取り出せる情報は自分の頭の中の情報となんら違いはない。自分の頭脳情報より1000倍も大きい外部情報が自分の情報になるのである.たとえばE-mailは初歩的な手段に過ぎないが、それでも瞬間的に世界のどの人の頭脳をも自分のものにする実感を味わうことはできるだろう。

 DNA情報しか持たない猛獣は筋肉と牙を鍛えて人間に勝とうとする。脳情報しか持たない旧人類は勉強勉強で頭脳情報を貯め込もうとする。所詮、DNA情報は10テラビットの脳情報に勝てず、脳情報は外部情報には勝てないのだ。快適な流れるような外部情報に取り囲まれたとき,君は頭が膨らんでいく悪夢にうなされるだろう.そして,君のチャレンジはやがて圧倒的な情報を操る新人類として,筋肉たくましい猛獣と、知識豊富な旧人類を手なずけることだろう.

 それを現実のものにするには作戦が必要である.

 方法は2つある。新人類を認識できない学生はアメリカに行け!大学はアメリカの大学と単位互換の英語教室を開催している.それで練習して,卒論か修士論文の研究でアメリカの学会に行き,そこで新人類に生まれ変わるのだ. 頭だけで認識できる学生は200MHzのPentiumを積んだパソコンを買うことだ。そして自分の身の回りに高速のネットワーク世界を築く。

 それから後は君の頭脳が外部情報で張り裂けるのを待つだけである.

以上