太陽光発電は太陽電池を作れるか?


 近年、石油などの化石燃料の大量消費による燃料の枯渇および地球環境の悪化が問題になっている。これらの問題を解決するために化石燃料にかわる新しいエネルギー源の開発が盛んに行われている。太陽電池は、太陽の光エネルギーを半導体の光電効果を利用して直接電気エネルギーに変換するものであり、発電時にCO2を排出しないため21世紀のクリーンエネルギー源として注目されている。しかし、その太陽電池もエネルギーの供給をうけて製造される。そこで、本当に発電によってそのエネルギーをまかない、クリーンな発電ができるのか、環境負荷をコストの観点から調査、計算した。環境負荷をコストで計算することの適否は別途の検討結果を参照のこと[1]。


1  現状

 太陽電池は今後、さらに改良されるであろうが、まずは現状について計算する。


1.1   太陽光発電システム設置と運転の総コスト(環境負荷)

 一般家庭で用いる太陽電池を3kWとする。住宅用太陽光発電導入基盤整備事業において、2002年7月31日~2002年9月25日の間に受付けた補助金交付申請書(兼設置完了報告書)の太陽光発電システム設置価格データによると、全太陽光発電導入量のうち、実に 88.1%もが多結晶シリコンによる太陽電池システムである。

 この多結晶システムには、太陽電池モジュールに加えた、インバータおよびその周辺機器や、標準工事を要し、システムの総費用は平均して 205.8 万円である。現在は国から30 万円の補助金が、地方によってはさらに補助金が出るところもあるが、本研究では補助金と設置者が支払う資金については区別していない。また、太陽電池の寿命はとりあえず20 年とした。太陽電池の機械としての寿命は20年以上を設定することもできるが、家屋の改築、住居人の移動などの社会的要因を考慮して、平均20年とした。

 設置および運転に関して掛かる経費は様々なものがあるが、たとえば、金利については3 %、元利金等返済とすると、205.8万円に対して20年間で273.9万円となる。また、固定資産税1.4%dで57.6万円、火災保険として、毎年0.4万円、20年間で 8.0万円となる。修繕費は、工業装置においては購入価格の3%とするのが一般的であるが、民生の太陽電池はあまり修繕をしないと仮定してて購入価格の1%を必要修繕費とした。これは20 年間で41.2万円となる。これらの合計すると、20 年間での支払い総額は380.7万円、年あたりの平均では約19万円と計算される[2]。

 「環境」は20世紀生産型の計算とは少し内容が異なる。20世紀型の場合は「対象とするものだけを考える」という思想なので、太陽電池に関わる多くの環境負荷(コスト)の内、設置した家屋に関係するものをピックアップする計算方法もある。しかし、太陽電池の設置目的が「電力費でもうける」というのではなく、「日本の環境や世界の環境に寄与する」ということを前提としているので、関係する環境負荷はすべて計算する考え方を採っている。


1.2   太陽光発電システムによる収支計算

 太陽光発電システムによって発電される電力量は、地方によって若干異なるが、名古屋の場合で計算する。NEDO全国日射関連データマップの日射量データ(1961~1990年までの平均)[3]を用い平均日照時間3.84hr、パワーコンディショナ(接続箱機能を含む)による損失を10%、素子温度上昇による損失を12~2月は10 %、3~5月および9~11月は15%、6~8月は20% とし、その他の損失(配線、受光面の汚れによる損失等)を5%とし、太陽電池セル付近の平均損失を30%とした。また、変圧、貯蔵、配電などの損失については明確なデータを集めることが出来なかったが、通常の電気機器の損失などを考慮してセル以外の総合損失を20%とした。

 20 年間での総発電量は47.093 kWh である。

 多少、細かい計算ではあるが、現実的に太陽電池ユニットを据えて中部地区で利用した場合の買電などを計算してみる。現在の一般家庭での電気料金は、中部電力株式会社で従量電灯B30Aで契約し、月に300kWhを使用すると1kWh あたり21.52 円である[4]。また、現在太陽光発電によって発電された電力の余剰分は、買電と同じ21.52 円 / kWhで売ることができるが、ここでは発電した電力のうち、名古屋では54 %の電力が売電されていると報告されている(全国平均も54%)[5]ので、この電力量は、火力発電原価に等しい10円 / kWhで計算し、残りの46 % を21.52 円 / kWhで売ることとすると20 年間で 99.8 万円(約100万円)の売電および節電による収入が得られる。

 買電単価が低いのは、送配電、変電や管理、僻地への配電などのコストによる。このことも「生産」と「環境」の計算方法の違いである。現在の電力費がなぜ20円以上するかという仕組みを勘案すれば納得できる。つまり石油から電力へ返還するときの効率は約33%であるから、石油3リットルで石油1リットル分の熱量に相当する電力を得ることができる。石油のグレードにもよるが、重油をキロ30円とすると、石油火力発電所末端では約一桁(kWhあたり2.5円程度)である。これが消費者のところでは10倍になるのは現代の工業の一般的傾向と一致する。

 20 年間で323.1 万円の支出に対して、99.8 万円の収入であるので、結局 223.3 万円の赤字となる。赤字が出ないためには、電気料金に変化がないと仮定して、家庭用の3 kWh システムの価格が 64 万円以下にならなければならない。


1.3  より単純で本質的な計算

 より単純で本質的な計算は、「設置した太陽電池から生まれる電力が次の太陽電池を作るために必要な電力を生み出すか?」という問いであり、上記の計算をより単純化してみる。

 20年間の太陽電池の運転コストは設備なども含めて約400万円である。これを日本の各家庭が設置したとすると、家庭で使用する電力費は22円で計算でき、半分は売電して10円とする。現実には将来、さらにシステムが改善される方向と、コストがかかる方向がある。改善される例としては「隣組」などの配線システムを完備してできるだけ遠くに運ばないようにすることがあり、コストがかかる方向としては電力使用量の増大とともに平準化が難しく、ピーク時電力にかなりの余裕を持たせる必要が生じる。しかし、現在ではそのような改善はたのエネルギー源でも同様と考えて、単純な計算をする。

 20年間の有効総出力は約5万キロワットであるから、2.5万キロワットを自己消費、2.5万キロワットを売電とすると、簡単な計算で87万5000円のインプットになる。約400万円を使用して約90万円分の価値を生み出すので、これをすべて次の太陽電池のために使用しても継続性が得られない。


2  将来

 現在、太陽電池が普及しない大きな理由として指摘されているのは、

1. 原料となるシリコンの供給量の不足
2. 光・電気変換効率が低い
3. 生産量が少ないことによる割高な設備など

とされている。

 1. に関しては、半導体用シリコンのオフグレード品を用いている現在の太陽電池用原料シリコンの2001年の使用量は、年間3000トンに達しており、半導体用シリコンの年生産量17,000トンの18%に達している。したがって、原料シリコンとして、安価な半導体用シリコンのオフグレード品の調達は難しくなってきている[6]。そこで新しいシリコンの生産方法が研究され、 NEDO溶融精製法および、粉体フラックス・酸素ガス同時インジェクション法を用いた新たなSOG-Si製造プロセスによって、供給量不足を解消することが可能となると考えられる。

 また、2に関して、システムの総費用205.8 万円を 60 万円程度以下にする必要がある。一般家庭用 3 kW システム 205.8 万円の内訳では、太陽光システムはセル自体の他に、コンバーターや一次電力貯蔵、配線、買電・売電に必要な装置やメーターなどからなっている。さまざまなケースがあるが、太陽電池モジュールが総費用に占める割合は50%程度である。

 そのため、光・電気変換効率が高くなり、現在の12%程度のものが20%になった場合、総費用は約30%減少し、140万円台まで期待できる。
 
 しかし、原料シリコン価格は、そのモジュール価格のうちの2割ほどを占めているに過ぎないので[7]、研究によって、安価に原料シリコンが供給可能となったとしても、システム全体の価格を60 万円以下にすることはまだ道のりが遠い。


3  講評

3.1  計算の信頼性

 この計算は修士論文研究で太陽電池用高純度シリコンの製造方法をテーマとしていた学生が計算したものである。多くの環境テーマの計算は、自分がそのテーマを推進する立場にある場合はそのテーマの推進に都合の良い計算が為される。しかし、学問においてもビジネスにおいても第一の計算は冷静的確に行う必要があり、自分が研究しているから有利な計算をするなどは研究者としての倫理に反する。多くの場合、研究者がその研究の良い点も悪い点もよく知っているので、それを正確に伝えることが大切である。また計算の結果、悪い結果がでてもそれをどのような技術開発で克服すれば良いかは研究者の判断と決意による。

 その点で、この計算は評価できる。ただ、「可能な限り太陽電池に有利に計算して良い」という指導を行ったので、計算に甘いところがあるのは良しとしなければならない。

 太陽電池が環境に対して寄与する第一条件は、太陽電池の出力で次の太陽電池ができることであり、それが「ゼロ点」に相当するが、それがまだ遠いので、太陽電池が現実に社会に役立つレベルまで来るのには考え方をすこし変える必要があるだろう。


3.2  他の試算との差異

 太陽電池を推進している研究者たちの計算結果とこの計算はかなり大きく異なる。その理由の第一は、「太陽電池を作るときに電力は要らないのか?」「太陽電池の社会的な存在価値を認めるのか?」の2点にあると考えられる。太陽電池推進者の計算は、太陽電池を作るときには電力は不要である、としているか、もしくは電力は計算に入れても鉄板やプラスチックに使用する電力やそれらを資源段階から材料へ転換するときのエネルギーを計算していない。かなり強引な計算例では、太陽電池を製造するときのエネルギーとして最終的な組み立てのエネルギーしか算入していない計算例もある。

 第二番目は太陽電池が社会的に存在価値が認められれば、税金、保険など必要な社会負担は応分に負担しなければならない。従って、保護自体の太陽電池の環境をそのまま太陽電池の将来に当てはめることはできない。

 もう一つ、やっかいな指標がある。それが「ペイバックタイム」という用語で、この用語の真なる意味は重要で、「太陽電池を作るときのエネルギーを太陽電池からの出力で何年で取り戻せるか?」、もしくは「太陽電池を設置した費用をそれだけ電気を使用したとして支払った代金でまかなうのに何年かかるか?」ということである。従って、上記のようにペイバックタイムは20年以上となる。しかし一般的に報道などされる例では2、3年となっているが、それは「作るときのエネルギー」をかなり限定しているか、あるいは高額な補助金をもらった例を示している場合が多い。日本の一般家庭の一年の平均電力消費は10万円未満とされている。太陽電池ユニットは年間約19万年掛かるので、これだけでも難しい計算をしないで、太陽電池がエネルギー源としてはあり得ないことを示している。

 また、この計算で税金や金利を計算していることに疑問を感じる向きがあると思うが、「環境」だからといって金利なし、無税という考え方は環境が特別なものであり、立派な社会的存在価値がないとするのでここでは採用していない。


(名古屋大学 武田邦彦、計算は中東君)


1) 「環境負荷の計算方法―2」参照
2) 最初の計算では、寿命20年・金利3%とすると、償却費2,166,000×0.9=1,949,400円、金利 2,166,000×0.03(利率)×20年=1,299,600円、固定資産税2,166,000×0.014 ×20年=606,480円、火災保険料 4,267円/年×20年=85,340円、定期点検修理 7,500円/年×20年=150,000円、つまり、20年間の総費用は 409万円 となった。現在はさまざまな新エネルギーの振興の意味もあって、税金などの優遇措置が行われているが、国民が等しく税という形のインフラストラクチャーを支払うことは環境負荷としてカウントする必要がある。
3) 新エネルギー・産業開発機構:全国日射関連データマップ,(2000)
4) A社:電気料金単価表(2002年9月1日実施)
5) 新国禎倖:太陽光発電システムの最新技術開発動向, (2001), 299
6) 日本金属学会:まてりあ, Vol.41 No.7 (2002), 49
7) 環境技術, Vol.31, No.5, (2002), 336