環境と人生 第三回

温暖化と海水準

 地球が温暖化すると直接的には気温が高くなるのですが、その他に普通に思いつくことは「海水面が上がること」「気象が異常になること」そして「疫病が流行ること」などでしょう。気象の異常が起こりやすくなることは間違いありません。それは気温が上がると物質の動きが活発になるからです。これを科学的には活性化エネルギーの影響と言います。

 例えば海から蒸発する水の量が増え、陸も土からの蒸発量が増えます。また生物は動きが活発になり、すべての化学反応は早くなります。気象は個別の化学反応の蓄積ですから気象の揺らぎ、つまり異常気象もそれだけ多くなります。もちろん気温が少し上がりますから熱帯夜等も増えます。

 特に日本の都市のように過密な場所では、全面的に舗装され、植物が少なく、エアコンがつけられ、自動車が多いという状態ですから、ヒートアイランド現象が起こります。その結果、さらに気温が上昇すると共に気温を平均化する余裕のある状態ではないので、異常な気温が観測される傾向があります。

 上の図は京都市の熱帯夜の記録です。元々京都は盆地ですから気温の変化が激しいのですが、1950年頃、つまり日本の高度成長が始まった頃から、熱帯夜が急激に増えつつあります。この結果と前述の日本の夏の気温変化が合致していないことに気がついた人がおられると思いますが、気象庁は日本の平均気温を測定するのに都市のヒートアイランド現象が入らないように気を遣っているからです。

 つまり日本の都市で生活をしている人の実感は日本の冬の気温が上がっていることとヒートアイランド現象によって夏の熱帯夜が多くなってきていることの組み合わせで気温の変化を感じていると言えます。下の図で赤い○は2℃程度気温が高いところで、橙色は1.5℃程度ですが、都市ほど高いことが判ります。

 次に温暖化によって海水面が上昇するかという難しい問題を考えてみます。専門的には海水準と言っています。

昔から地質学者は地表にある「堆積物」の周期性を説明しようとして来ましたが、現在では海水準が上がったり下がったりしていたことを反映していると考えられています。例えば、1万8千年前の最後の氷期(「氷河期」ではありません)の最後では地球の気温は大きく低下していたので、海水の量自体が地球規模で減少して、海面は今より実に約120mも低下していました。

この時期には地球の地図もかなり違っていて、アジアとアラスカの間のベーリング海峡がつながっていたので、アジアから北アメリカに人類が移住したとされています。日本では瀬戸内海が存在せず、四つの島は一つにまとまっていたか、あるいは北海道がわずかに離れていたかというところでした。隠岐島も陸続きでした。

 その後、地球が間氷期に入ると海の水が溶けて海面が上がり、現在の海水準になっています。つまり下の図に示しましたようにネアンデルタール人か活躍した一つ前の間氷期(12万年ほど前)とほぼ同じ海水準になっています。また、下の図ではあまり細かいことは判りませんが、現在の海水準は3000年ほど前から見ると10メートルほど低くなっていますので、21世紀に予想されているような1メートル前後の海水準の上昇はそれほど大きなものではないことが判ります。

 ところで地表の海水準というものはかなりダイナミックな変動があるもので、生物が繁殖したカンブリア紀以後の海水準を整理してみると、下の図のように実に200-400メートル規模で変化するものなのです。三葉虫やアンモナイトが活躍していた時代は現在より400メートル近くも海水準が高い時代があり、恐竜の時代(中生代)では200メートルも高かったのです。

 このようなダイナミックな動きに対して21世紀の100年間で海水面が最大で88センチ上昇すると言われています。たしかに標高が1メートル以下の小さい島もありますし、もともとゼロメートル以下の地域もあるのですから、海水準が上がると困る人がいることは確かですが、地球はそれほど微妙ではないことを知ることも大切です。これからも自然の働きで海水準は上下するので、それに対して人間はどのように対応するかを考えることも一つの方法でしょう。

 このように大きな気温の変化では気温が低くなると海水準が下がり、高くなると海水準が高くなるのは間違いないのですが、数℃程度の変化の時には同じ理屈は通じません。まず「北極の氷が溶けると海水準が上がる」というのは原理的には間違っています。

 今から2200年ほど前にアルキメデスが、浮いている氷が溶けても水面は変わらないというアルキメデスの原理を発展したことはよく知られています。だから此は既によく分かっていることで、アルキメデスの原理を知らない人が時々錯覚されているだけです。

 「世に盗人の種は尽きまじ」とは釜ゆでになった大泥棒の石川五右衛門が最後に呟いたとされる言葉ですが、社会には地球温暖化を真剣に心配している人もいれば、地球温暖化で一儲けしようとたくらんでいる人もいます。そのような人が氷が溶けると海面が上がると言っていますので、注意をしてください。

 またアルキメデスの原理より少し難しいのですが、陸上の氷が溶けるとどうなるかは難しい問題です。氷期のように地球全体の温度が下がっているときには当然、陸の氷の量が増えると海水の量が減るので、海面は下がるのですが、数℃の場合はすこし事情が違います。


(サントリーウィスキー提供)

 ウィスキーが蒸留酒であることはよく知られていますが、アルコール度の低いお酒を蒸留してアルコール濃度を高くするのがお酒の蒸留です。ウィスキーの他、ブランデーも焼酎も蒸留酒です。蒸留の時には濃度の低いお酒を釜に入れて温め、そこから発生する気体を冷たく冷やしたところに凝集させます。蒸留の速度を上げるには釜を暖めます。

 これと同じように気温が上昇すると海や陸の水が蒸発しやすくなり、それが南極などマイナスの場所に氷となって付着します。だから、地球が温暖化して氷河が溶けているからということだけで海水準が上がるとも限りません。事実、グリーンランドの氷の量は温暖化に関わらず増加しているという報告もあります。

 温暖化と海水準の問題はあまりにも難しいので、ここではあまり議論をしないことにしますが、ともかく「温暖化イコール海水面が上がる」という先入観は少し慎重にした方がよいと思います。

終わり