南北問題、弱者、および生物と環境の関係(その2)

生物と環境

 アメリカに白人(主としてイギリス人)がメイフラワー号で渡来して以来、アメリカ大陸の人間、動物は大きな被害を受けた。一説ではインディアン1,000万人、バイソン6,000万頭、プレーリードッグ2億頭が犠牲になったとも言われる。異民族、そして人間の文明と環境を「支配者の視点」だけで判断することは偏った見方を与える。


図 45 一時、数百頭にまで減少したアメリカのバイソン

 世界で絶滅危惧種が急激に増大していることはよく知られているが、日本でもトキをはじめとした多くの動物が絶滅した。人間がその活動範囲を広げると動物の居住環境を犯す。現在の日本で言われる「環境に優しい」とは「自分だけに優しい」というのとほとんど同じで、多くの動植物は被害を受けている。
 その一つが実験動物の問題で、人間の病気や安全性を保つために無制限な動物虐待が行われている。すでにその程度は「動物愛護団体」の活動の域を出ている。例えば、図の左はストレスによる変化をみる動物実験のイヌで、ストレスをかけるために毎日、決まった時間に足の甲を金槌でたたきつぶす。毎日、足の甲を叩かれるイヌは強いストレスにかかるので、その時の神経伝達などを調べるのである。
 また放射線の安全領域を確定するために、メガマウス(100万匹のマウス)を使って放射線とガン発生の研究がなされた。100万匹のマウスを殺したことによって得られたデータは「放射線はある程度以上になると発ガンの危険がある」というものであった。わずかな人間の安全のために膨大な量の動物を殺害する傾向はさらに強くなっている。

       
図 46 ストレスの実験台になるイヌとメガマウス計画

 人口の増加と生活に使用するエネルギー、物質が増え、行動範囲が広くなるにつれてすでに日本では動植物が生活する環境はかなり狭くなっている。特に都市部の環境は舗装道路、ビル、街路樹の根本の設計、家屋、河川などあらゆる設計が「人間だけのための設計」になり昆虫を含めた動植物はカラスやゴキブリなどのように廃棄物処分動物だけが残る。

          
図 47 1850年の神奈川(左)と2000年の新宿(右)

 このような都市環境の中で長く人間と共に生活をしていたイヌやネコのような身近な家畜の生活も大きく変化している。一年間に保健所でガス室で処分されるイヌは40万匹、ネコ30万匹で全体の4割近いイヌ、ネコがその命を全うできない状態である。ブリーダーによる計画的生産と飼い主の移り気、それに加えて生活環境のゆとりを失ったことが原因している。
狂牛病はリサイクル飼料を使ったことによって起こった。この場合は死亡したウシの肉骨粉を処理してウシに食べさせた共食いが原因とみられている。大発生した狂牛病はすでに終焉しており、原因を調査し、対策を実施したら発生が抑制されたという点から、狂牛病の原因がリサイクル飼料であったことが明らかである。


図 48 英国におけるBSE発生状況 )

 狂牛病は食の問題でもあるが、動物と人間の関係について考えなければならない。霜降り肉を作るためにウシをビタミン不足と失明させることや、ブタのスツール飼育が問題になっているが、「家畜は命を持っていない」ということを前提としているのではないかと思われる飼育法が目立つ。また鳥インフルエンザも人間の安全を保つために何十万羽というニワトリを袋詰めにするなど「自然との共存」ということが言葉だけに終わっていることも環境問題として考えておかなければならない。
 自然との共存は実に難しく高度な問題を含んでいる。基本的には人間が進出すると動植物が駆逐される関係にあり、人間の発展を止める必要があること、人間に対して有害物質は必ずしも動物では有害ではなく、人間の生活と動植物の保全についての議論をさらに進めておく必要がある。食物連鎖からいうと食物連鎖の頂点に位置する動物は「さぼる」ことが必要であり、また地下の動物の保全にも注意が必要である。

第十回 終わり