資源とエネルギー(その1)
資源の特徴
エネルギー資源を含めた資源の枯渇の問題は、環境問題の内でも最も厳しく、世代間の権利と関係して未解決の課題である。資源は、工業的資源として、材料資源とエネルギー資源に分けられ、生活資源として、大気、水、土壌、気温、風土などがある。
材料資源は、1)鉄 2)非鉄 3)プラスチック 4)無機材料 があるが、それぞれ成因と近代工業の消費量で枯渇時期が異なる。一般元素の資源量と消費量の関係を Goldschmidtが整理をしているが、金銀、銅、鉛、亜鉛などの銅族元素がクラーク数を基準として整理するともっとも相対消費量が多く、人類が使用している主力材料である鉄やアルミニウムは資源量にあまり大きな不安はない。鉄は20億年前に海の溶けていた還元性の鉄が生物が吐き出す酸素によって酸化されて沈殿した縞状鉄鋼床からのものを使用している。
図 21 縞状鉄鋼床
これに対して近い将来、資源の枯渇の可能性があるのは、多くの非鉄金属材料と石油寿命に連動するプラスチックである。
図 22 元素の存在量と人間の使用量の関係図
石油が大昔の動物の死骸からでき、石炭が同じく植物の死骸からできたのはよく知られているが、鉄鉱石もまた生物起源であり、さらに大気中の酸素も生物が吐き出した酸素の名残である。自然というと山や川、海など非生物的で無機質のものと捉えがちであるが、現代社会が利用している資源の多くが生物起源であることは注目に値する。
図 23 大気中の酸素濃度の変化
第一章に述べたように資源の第一原則は、「資源品位によって資源の価格が決まる」ということであり、価格(コスト)は採掘、製錬、加工に使用されるエネルギーや物質の合計であるから「資源品位によってその資源を有効に使用するまでに消費する資源の量が決まる」とも言える。
資源学においての基本的な数値は資源品位であるが、地殻に存在する有用資源の品位と埋蔵量の関係は正規分布ではない。Skinnerの整理によると横軸に資源品位をとり、縦軸に資源量をとると大部分の資源は2つの山になる1 )。地殻に分散している資源の品位はきわめて薄く、これらの資源を採掘するには採掘して得られる資源価値より多くの資源を投入しなければならない。このような資源は「物質」ではあるが「資源」と呼ぶのは適当ではないことがわかる。
1990年代からリサイクルや循環型社会が唱えられ、「ゴミも資源」と言われるようになったが、ゴミが資源かどうかはまだ学問的には結論が得られていない。先に述べたように「物質」や「製品」は必ず劣化するが、この劣化には物質自体が劣化する場合と、拡散して薄くなり資源としての意味を持たなくなる「拡散劣化」の2つがある。人間が物質を使って活動を行うためには、物質の劣化が必要であり、その意味からはゴミは資源とは言えない。ただ、物質的な劣化が進んでいないのに廃棄する場合には拡散劣化が小さい場合には物質循環が可能な場合もある。
図 24に日本の鉄鋼の循環を示した。年間約1億トンの鉄が鉄鉱石の形で入り、高炉転炉で鋼になったものは日本市場に5,600万トン程度が投入される。毎年、回収される量は2,800万トン程度であり、投入量の約50%である。材料の多くは市場の投入されたもののうち、数値的に把握できるのは3分の2程度である。例えば、ヨーロッパのプラスチックは年間2,400万トン程度販売されるが、使用段階で捉えられるものは1,600万トン、日本のプラスチックでも1,500万トンの販売量のうち、使用段階で1,000万トンを把握することができる。
また鉄鋼においてはスクラップ工業が従来から発達しており、電炉を使って回収再使用されるが、回収鉄の中に銅やスズが混入することから二級品として取り扱われることが多い。また近年、中国の急速な発展によってリサイクル鉄が中国に輸出され、国内循環が困難になってきている。リサイクルが世界規模の資源循環のために実施する場合は良いが、日本の資源獲得という点ではリサイクル鉄が中国に流れるのは望ましいことではない。
図 24 日本における鉄の循環
このように、人工的資源が獲得できない理由は、1)拡散して回収できないものが50%程度ある(拡散劣化) 2)材料が劣化して主力用途に使えない(性能劣化) 3)商品の国際貿易が盛んであるが廃棄物は国外に出すことができない(国際劣化) などの障壁が克服されないからである。
参考文献
1) B. J. Skinner, “Earth Resources”, Prentice-Hall, Inc., New Jersey (1986)
第五回 終わり